鎧熊
第十九階層を抜け、第二十階層へと辿り着いた。
ここに出てくるのは、アイアンベアーと呼ばれる鋼鉄の鱗を持つ熊の魔物だった。
全身の表面を魚の鱗のような金属で覆っていて、両手にある爪は鋭く尖っており一本一本がナイフのような形を取っている。
魔法への耐性はそれほど高くないが、火魔法を使い火の玉や壁を生み出すことができる。
強さ自体はそれほどではなく、1~3体となって行動を取る。
戦闘能力的には問題はなく、ディル達はそれほど問題なくこの熊を倒すことができた。
近くに寄る前に魔法を使われた場合が少し厄介だったが、ディルとイナリの回避能力があれば十分に避けることができたため、それほどの問題にはならずに先を進めている。
基本的には三人で進み、然るべきタイミングで四人になるというやり方は変わらず、何度かアイアンベアーと黒騎士も含めた四人で戦いながらマップを埋めていった。
第二十一階層へと繋がるルートを幾つか見つけ出し、魔物と遭遇せずに進めるルートを見つけたところで、一度話し合いをした。
この階層でアイアンベアーと戦うのにも慣れてきたということで、全会一致で下層へ進むためのボスと戦うことを決めたのである。
「準備はいいな?」
イナリの言葉に、三人が頷く。
皆、事前に戦う相手のことは調べてある。
戦闘能力的な面でも、相性の面でも、決して倒せない相手ではない。
だがこのパーティーが今まで戦ってきた中では、一番の強敵にはなるだろう。
戦闘の準備を終え、息を整えてから第二十一階層へと続く転移水晶のある大部屋へと駆ける。
彼らの目の前に現れたのは、アイアンベアーよりも二回りほど大きな魔物であった。
「グルゥアアア!!」
その見た目は、アイアンベアーと幾つか共通している部分があった。
全体的に黒っぽい毛の色に、赤色の切れ長の目。
全身を覆うのは金属の鱗ではなく、つなぎ目のない金属の板だ。
金属になっているのは爪だけではなく、肘から先は全てが金属で出来ていた。
まるで特注の鎧か何かのように、身体に宛がったようにぴっちりとくっついている。
アイアンベアーの親のようにも思えるその魔物の名は鎧熊。
この第二十階層を守り、中層と下層の間の門番の役目を担っている魔物だ。
まず相手を確認した黒騎士が狂乱状態に入る。
ディルがそれに呼応して即座に距離を取った。
黒騎士が最も近い距離にいる相手である鎧熊へと視線を向けたタイミングで、後ろから白い光線が矢よりも数段早い速度で打ち出された。
迸る光線が鎧熊の胸部を抉る。
呻き声を上げながら、少しよろめいた。
元々火魔法を扱うためか、火魔法に対してはある程度の耐性があるらしい。
アイアンベアーなら一撃で消し炭になる攻撃でも、表皮に若干の火傷を残す程度の傷しか与えられなかった。
「グルルルル!!」
「ぶるああああっ!!」
鎧熊は若干ふらつきながら、アッパーカットの要領で己の握った右拳を振り上げる。
対し黒騎士は黒剣を抜刀、逆袈裟の形でそれに応じる。
ディルはその背後に回るように迂回しながら駆ける。
後方に回った彼の視界に、鎧熊の身体に牽制の短剣が突き立つ様子が映った。
イナリの援護だろう。
既に見切りを使用していたディルには、己が辿るべき太刀筋がわかっていた。
魔剣『黄泉還し』が正面の戦力に集中していた鎧熊に迫る。
即座に振り向き、背撃に気付かれる。
残る左腕を防御に回し、大きく背中に回した。
だが遅い、既にディルには最適な動きが見えている。
ディルの魔剣が、その右腕を掻い潜り背中へと突き立った。
鎧熊が叫喚を上げる、十分に役目を果たしたと判断し即座に後退。
黒騎士の一撃が後ろに意識を割かれた鎧熊へと命中する。
そしてウェンディの第二弾が当たり、黒騎士を巻き込む形で炸裂した。
ディルは見切りを使い、再度接近。
しかし彼が再度の攻撃を見舞う必要はなくなっていた。
衝撃で倒れた鎧熊の身体を、黒騎士が大振りの一撃で断ち割る。
息絶えた鎧熊を見てから、黒騎士がゆっくりとディルの方を向く。
「あはは……結局こうなるのね」
ディルは苦笑いをしながら、黒騎士が正常に戻るまで彼の攻撃を受け流し続けた。
こうして四人は無事、下層へと進むことに成功したのだ―――。
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