シャドウ
黒騎士と一緒に潜ることが決まったその日、ディル・イナリ・ウェンディの三人はまず十五階層へ出向き、黒騎士と合流。
そして転移水晶を使用して、第十六階層へと向かった。
一応事前に顔合わせとできることの確認はできていたので、準備や移動に手間取るようなことはなかった。
「私が先に行く、イナリは警戒を」
「わかった」
自分たちの居る場所を確認してから、今回は黒騎士を先頭にする形で四人が進んでいく。
確認をした時に分かったことなのだが、黒騎士が狂乱状態に入るのは鎧が戦闘状態に入ったと認識をした瞬間であるらしい。
どうやら呪われたアイテムの中には、意思を持つようなものまで存在しているようだった。
もしかしたら、自分が持っている剣もこんなジジイに握られたくないと思っているかもしれん。
そんな風に考えるだけの余裕があるということは、やはりこの構成に自信があるということなのだろう。
黒騎士は魔物に出くわせば見境無く戦闘の鬼と化すが、逆に言えば戦闘が起こらない限りは普段通りの温厚な男のままだ。
また彼の鎧が初撃を防いでくれるため、イナリが罠さえ警戒すれば影から攻撃をしてくるシャドウのことはあまり気にしなくて済む。
シャドウは自分が隠れている影に踏み込まれた時に、その相手を攻撃するような習性がある。
そのため黒騎士はとりあえず、目に付いた影を踏んで初撃を食らう前提で前を歩いて行く。
見えている影を踏んでいくので普通に歩くよりはゆっくりとしたペースだが、これでもディル達が三人でやっていたときよりもよほど早い。
ディルかイナリが攻撃が来れば避ける前提で影に一瞬入り抜け出して、というのを繰り返し、休憩を挟むという従来のやり方と比べると効率は雲泥の差だった。
これであとの問題は、この四人でまともに連携をして戦闘ができるかどうかじゃな……と考えているディルは、ガィンという硬質な音を聞く。
自分の前に居るイナリの先に居る黒騎士、彼の鎧が攻撃を受けて火花が散っていた。
「下がれ、イナリ!」
「死ぬなよ、ジジイ!」
イナリとディルが位置をスイッチ、黒騎士の攻撃を捌けるようにディルが前に出ながら見切りを発動させる。
洞窟の中にある光石に照らされたディルの光の先では、事前に一度見ていた黒騎士の狂乱が始まっていた。
「グルゥ……」
獣のような唸り声を上げて、ピンと伸びていた背筋が丸まる。
跳躍をする直前の猫のように手を地面につけるスレスレまで下げながら、今しがた自分を攻撃したシャドウをじいっと見つめている。
鎧の隙間から見える彼の目は、真っ赤に輝いていた。
「グラアアアアアアッ!!」
雄叫びを上げる黒騎士へ、シャドウが二撃目の攻撃を放った。
剣のように硬い腕を、鎧目掛けて突き出したのだ。
黒騎士はそれを、前進しながら受ける。
避けることすらせずに、彼は背に掲げていた大剣を持ち上げる。
そして剣技もへったくれもない、ただ持てる全力をぶちかますだけの大振りの振り下ろしを放った。
技後硬直を受けていたシャドウが攻撃を食らい、そのまま地面に倒れ込む。
一撃で、完全に息の根が止まっていた。
ここで戦闘は終了だ――そう、魔物との戦闘は。
あらかじめ聞いていたことではあるが、黒騎士の狂乱というバッドステータスには時間の縛りがある。
つまりはもし魔物との戦闘が終わったとしても、時間が続く限りは彼が周囲に暴威を振りまき続けるのだ。
目の前の魔物が絶命しているとわかった黒騎士が、ゆらあと幽鬼のように立ち上がる。
彼はグルグルと周囲を見渡して、一番近くにいたディルへと目を向ける。
黒騎士が誰かと組むことができないのは、普通のパーティーではこの戦闘後の狂乱が対処のしようがないからだ。
だがディルには見切りがある。
一度に狂う時間は、それほど長くはない。
その間、自分が黒騎士の攻撃を見切り続ければ良いだけの話。
「これはこれで疲れるけど……戦力強化のためじゃ、かかってこい黒騎士」
「ブルアアアアアアアッ!!」
暴れ馬のように首を振り回しながら駆けてくる黒騎士を見ながら、ディルは剣を構える。
そして見切りを発動させ、二人の戦闘が始まった。
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