戦えるんですね、お互いに
ウェンディと握手を交わしたその翌日、ギルドに免責事項を書いた契約書を管理してもらう運びとなり、臨時パーティーは結成された。
ちなみにその内容は、もし何か不測の事態が起き、ウェンディの魔法が二人を傷つけたとしても彼女に責任を負わせないというもの。
無論、故意の場合はその限りではないという条項が足されてはいたが、所詮は気休め程度の効果しかないだろう。
ディルとイナリが二人ともやられてしまえば死人に口なし、ウェンディはしらを切って逃げることも容易なのだから。
自分とパーティーを組む人間は、これにサインしてもらっている。
平然とした顔をしながら、わりとどぎつい内容の契約書にサインさせようとうそぶくウェンディに話を聞いてみたところ、面白いことがわかった。
彼女の過去のパーティー遍歴の一部が、明らかになったのだ。
彼女はかつて冒険者になりたての頃、何度か味方が被害を受けるような魔法をぶっ放していた。ウェンディの名はその見た目と魔法の派手さから、そこそこ有名になったのだという。
フレンドリーファイアを恐れて離れていく人も多かったが、その火力に魅力を感じる物好きも多かった。
彼女は自分にぴったりなパーティーがどこかにないかと、色々な人達と組んでいた。
だがある日自分が入ってからしばらく続いたパーティーで致命的なミスを犯し、ウェンディはそれからはソロでダンジョンに潜るようになったのだという。
ただ自分に飛び火するとわかっていても、その力に魅了されるものは一定数いた。
そこでウェンディは、一枚の契約書を作った。
それがディル達が名を記したものの、プロトタイプにあたる。
自分を誘う物好きなら、自分に殺されても文句を言うなという暴論を認めさせるためのものだ。
だがやはり蓼食う虫も好き好きとは言ったもので、自らの名前を記した勇者は、ディル達を除いて二人もいたらしい。
その契約内容の不平等さを加味してもなお、彼女を仲間にと考えた人が二人いたことを驚くべきなのか。
それとも結局、その人達と轡を並べることができていないウェンディのことを嘆くべきなのか、判断に悩むところであった。
ディルもイナリも、自分達の回避能力にはある種の自負はある。
大抵のことならなんとかなるだろうと考え、三人はとりあえずオーガの出る第五層の広間で待ち合わせをすることにした。
第五階層を指定したのはウェンディだ。
狭いところでは、回避する間もなく死んでしまうかもしれない。
言われなくとも、ディルには彼女がそう思っているような気がした。
ディル達とウェンディは水晶を使ってから数時間後、無事に合流することができた。
ウェンディが一人で平気だと自信満々に言っていたので信じたが、ディルとしては正直彼女を一人にさせるのは不安が残っていたので、素直にホッとした。
彼女は魔法使いで、逞しい肉体をその武器とするオーガとはあまり相性が良くない。
肉弾戦にでも持ち込まれようものなら、苦戦は必至だからである。
だがディル達の前に現れたウェンディに、疲労しているような様子はない。
彼女は初めて会った時のような飄々とした態度を崩さずケロッとしていた。
オーガに一度も会わなかったとは考えづらい。
あらかじめ知っていたことではあるが、やはり彼女の戦闘能力は中々に高いようだ。
ディルはウェンディの力に驚いていたが、どうやらそれは向こうも同様だったらしい。
「本当に戦うんですね、おじいちゃんなのに」
どうやらディルの剣からする血の香りを嗅いだようで、彼女も驚いているようだった。
一応オーガの腰ミノで拭きはしたんじゃけど……嗅覚も鋭いみたいじゃな。
ディルが彼女の有能さに驚いていると、少しだけ表情が変わっているのがわかった。
気持ちだけではあるが、目がさっきまでよりも開いている気がするのだ。
今まで感情表現豊かではなかった分、そんな些細な変化も大きなものに感じられた。
ディルは彼女がいつもの表情に戻って少ししてから、ウェンディの言葉の意味を反芻する。
「戦わなくちゃ、孫に仕送りができんかったから……」
「せ、世知辛いんですね……全然お金持ちじゃないじゃないですか」
どうやらディルの身内話は、彼女の認識を改めさせることに成功したようだった。
手応えを感じていると、イナリの茶々が入る。
「今は普通に金あるぞ、こいつ。こまい生き方をしてきたからだろう、金があっても稼がないと不安がるからここにいるだけだ」
「あ、それは私も似たようなものですね。お金ってあっても不安だし、なくても不安になりますし」
「金なんかなくても生きていけるだろうに。やはりこの国は変な奴ばかりだな」
「わしらじゃなくて、イナリが少数派なんじゃと思うよ?」
第五階層は基本的には見晴らしが良く、イナリの索敵能力もあるおかげでさほど緊張感は漂っていない。
少し雑談をしてから、三人とも意識を戦闘用に切り替える。
ディル達の目的はウェンディの戦闘能力を確認すること、そしてウェンディの目的はディル達が組むに値する実力者かを確かめること。
頼んだ自分達から、力を見せてというのも押しつけがましい。
戦う姿を見せるのはこちらからにしようと口を開こうとしたが、ウェンディの方がワンテンポ速かった。
「まず連携云々の前に、私の魔法を見てもらった方が早いでしょう。向こう側のオーガ三匹、とりあえずあれを倒しますね」
彼女はそれだけ言うと、ローブを翻して走り出す。
その向かう先には、まだこちらに気付いている様子もなくうろうろと歩き回っているオーガ達の姿。
巷で噂の、『皆打』ウェンディの魔法。
収束とかができたり、余波が飛んでくるくらいなら一緒に戦えるとは思うんじゃけれど……。
ディルはウェンディの魔法が、使った瞬間に周囲一帯を焼き払うような無差別なものでないことを祈りながら、彼女の戦いの様子を観察することにした。
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