二年
あとがきに大切なお知らせがあります!
ぜひ最後までご覧になってください!
ウェルドナ王立魔法学院は全ての学生達の憧れにして、目標でもある名門校だ。
この学院を卒業したとなればたとえ平民であろうと就職に困るようなことはなく、その卒業生の錚々たる面子を見ればそれが事実であることがすぐにわかる。
我が子が進学したとなれば親族一同でお祝いをするほどに名誉なこの学院は、王族を始めとしてウェルドナ王国の未来の王国の中核となる生徒達が通うことになるエリート養成学校。
入学試験も難しいが、卒業するのもなかなかに難しい。
十五歳から十八歳までの三年間でストレートで卒業ができる生徒は全体の半分もおらず、多くの学生達は二十歳前後でようやく卒業できるようになる。
貴族家の人間の中には在学中に軍役に就くものが多いということもあり、学院の中には年齢など関係ないという風潮が漂っている。
そのため中では明らかに周りと比べて大人びた生徒がいても、誰もそこまでおかしなこととは思わない。
だがそれでも限度というものはある。
「イナリさん、お久しぶりです!」
「ん……おお、ウェンディやないか。二年ぶりやね」
授業が終わった放課後。
生徒達が帰宅しようかとグループになりだしたタイミングで、一人の女生徒が入ってくる。
一年生の教室に突如として三年生がやってきたかと思うと、いきなり頭を下げる。
一年生が上で、三年生が下と完全に上下関係が仕上がっている。
「ねぇ、しかもあの方って……」
「ウェンディ様でしょ、騎士科のエースの!」
生徒達がこそこそと密談を交わすのも、無理のないことであった。
ウェンディ・クライン――彼女は学院生であれば、その名を知らぬ者は居ないほどの有名人だった。
騎士科の首席であり、無属性魔法である身体強化のエキスパート。
野外訓練では想定外に出没した、教官が死を覚悟して足止めをしようとしていた凶悪な魔物を見事討伐してしまうほどの腕前を持ち。
おまけに容姿も端麗で、性格も快活で明るいと来ている。
となれば人気になるのも当然で、学院内に非公式のファンクラブまでできるほど。
彼女はその実力からいくつもの騎士団や貴族からのスカウトを受けても、その全てを断っているということでも有名だった。
そんな彼女が頭を下げるのが、妙に大人びた凄みのある一年生。
しかもその隣には十人が十人振り返るほどの美少女……もう一度言おう。
それでも、限度というものがある。
「イナリさん……強くなりましたね」
「あ、わかる?」
「そちらの方は、妹御のミヤビさんですね?」
「あら、どうもよろしゅう、ミヤビです。兄ぃ、この方は?」
「うーん……まあ僕の未来の騎士候補ってところかな」
「……あかん。兄ぃ、うちが見てないうちにまた女の子に唾つけとる」
「誤解なんやけどなぁ……」
クラスメイト達の視線を一手に引き受けている少年――イナリは自身が見られているということを気にする風もなく、そのまま音もなく立ち上がった。
そして隙のない優雅な所作で歩き出すと、ミヤビは当然のようにその横にぴっとりとついた。わずかに遅れてウェンディがその後に続く。
「ほんなら、とりあえず茶屋にでも行こか?」
イナリが選んだのは、王都では一番に高級店と言われている『フォックステイル』という喫茶店だった。
一杯紅茶を飲むだけで金貨が吹っ飛ぶような、ラグジュアリーな空気感の漂う超のつく高級品である。
イナリはその空気感にも慣れているようで、手慣れた様子で注文を済ませた。
そして紅茶を口に含み、ほうと軽く息を吐くと、
「ずいぶん頑張っとったみたいやね」
「……恐縮です」
ウェンディはそういって頭を下げる。
彼女にとってイナリとは、自身の未来を指し示してくれた目標であり、灯火であった。
自身が将来彼の役に立つことができるよう、学院の中では絶えず己を鍛え続けてきた。
自分でもそこそこやれるようにはなったとは思っていたが、周りの人間から褒めそやされても慢心することなくたゆまぬ努力を続けてきた。
そしてイナリの復学の話を聞き、これで胸を張って彼に会いに行けると胸を弾ませ……そして邂逅した瞬間に、理解した。
自身が胃の中の蛙であったということに。
自分を鍛え上げ、強くなったからこそわかる。
今のイナリが、次元の違う強さを持っていることを。
けれどウェンディはそれと知って絶望するほど、柔ではなかった。
彼女が鍛えてきたのは、何も肉体だけではないのである。
「一体どうやって……そこまでの強さを」
「たゆまぬ自己研鑽と自助努力。後はまあ、くぐった死線の数やね。上位魔族を討伐したりドラゴンを殺してたら気付いたら……って感じかなぁ」
「じょ、上位魔族に……ドラゴン!?」
ウェンディが予測すらできないような名前が出てきた。
どちらも神話やフォークロアで出てくるような、伝説級の存在である。
上位魔族というのは有史以来数えるほどしか討伐報告のなされていない正真正銘の化け物。
ドラゴンというのはそれを討伐すれば爵位が与えられ、ドラゴンスレイヤーとして祀り上げられることになるほどの大物だ。
それを、このたった二年で……。
ウェンディはイナリが言った死線という言葉の意味を、真に理解する。
それほどまでの強さを手に入れるための代償は、決してなまなかなものではなかったはずだ。
「良ければ、聞かせてくれませんか。この二年間、イナリさんがどんな風に」
「うん、ええよ。別に隠しとくようなことでもないし」
そしてイナリは語り始めた。
彼がミヤビを助けるために行った魔族討伐と、その後にミヤビも加えて始めた新たな魔境での物語を……。
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