光
「なっ、なん――」
闇の魔剣から放たれる光に、ラガヴーリンは思わず目を細める。
けれどローズは喀血しながらも、光とそれを放つ刃をじっと見つめていた。
闇の魔剣からあふれ出す光は、不思議なきらめきを持っていた。
剣身からは白と黒の入り交じった不思議な光が噴き出している。
どこか神聖さを感じさせるような白と、それに一寸先すら見えなくなるほどの濃密な黒。
二つの色が混じり合い解け合いながら、一つの渦となって剣の周囲を飛び回っている。
闇の魔剣からあふれ出しているのは、黒い光。
そしてもう一方の白い光は、ローズの身体の内側から溢れ出しているものだった。
二人の魔力が混じり合いながら、一つの混沌を作り出している。
突然のことに慌てるラガヴーリンを見ながらも、ローズは落ち着いていた。
「ぎゃああああああっっ!!」
刀身から溢れ出す白い光を浴びたラガヴーリンが悲鳴を上げる。
それと同時に、闇の魔剣を握る力がぐっと強くなった。
気付けば、胸の痛みは消えていた。
それどころか温かな何かが、身体の内側を駆け巡っているのがわかる。
ドクン、と再び全身が脈動する。
その脈動は、胎動であった。
新たに産声をあげようとしている何かが、ローズの中でうごめいている。
そして彼女が同じものが目の前にいる彼の中にもあることに気付く。
ローズとイナリの視線が交差する。
彼女は一目見たその瞬間、目の前にいるのがラガヴーリンではなくイナリであるとわかった。
「私……不思議だったことがあるんです」
「何が、不思議やったの?」
「私はなんで、イナリさんと出会うことができたのか」
自分がなぜ、イナリと出会ったのか。
ローズはそれがずっと疑問だった。
幸運で片付けるにはあまりにもできすぎた流れ。
それを不安に思った夜もあれば、漠然と期待を抱いたこともあった。
けれど彼女はここに来て理解する。
自分がイナリと出会ったのは――運命だということに。
二人は互いに頷き合い、そしてゆっくりと息を吸う。
そして彼らは脳裏に浮かんだ言葉を、そのまま言の葉に乗せた。
「「――聖魔剣創造!」」
二つの光が混ざり合い、高め合い……そして気付けばローズの傷は塞がり、イナリの手には一本の剣が握られていた。
互いを飲み込まんとする白と黒の蛇を一本の剣に押し込んだかのような、ツートンカラーをした剣だ。
柄は刀身を囲む形で白と黒、二つの勾玉がはめ込まれているような形状になっており、紫色の鞘は金の蒔絵で彩られている。
「ちいっ! なんだ一体、何が起こってやがる!」
気付けばイナリ達の前には、つい先ほどイナリの体内に入った青色の気体――上位魔族であるラガヴーリンの姿があった。
「なんだかよくわからねぇが……もういっぺん、乗っ取ってやるよ!」
支配から脱したイナリ目掛け、ラガヴーリンが動き出す。
基本的には倒すことが不可能とされている上位魔族。
けれど彼らが持つ強みにして唯一の弱点である誓約の内容を、イナリは当然知っている。
「お互いに精神攻撃でしかダメージを負わなくなる……わりと物理寄りな僕とは相性の悪い誓約や」
「でも今の私達には関係ありません……違いますか?」
「……うん、そうやね」
イナリは立ち上がるローズをかばうように立ちながら、新たに生まれた魔剣――聖魔剣を正眼に構える。
彼は力まず自然な動作で、スッと水平に剣を振るう。
その横薙ぎの一撃はラガヴーリンに吸い込まれるように向かっていき……そのまま青の気体を、真っ二つに断ち切った。
「な、が……っ!?」
「聖剣は誓約を無視して攻撃ができる。聖女のローズの力が宿った僕の聖魔剣なら……それと同じことができるっちゅうわけや」
本来であれば物理攻撃でダメージを受けるはずがないラガヴーリンは、そのまま一刀の下に切り伏せられ、さらさらと消えていく。
再びレベルアップが行われイナリ達の傷が塞がっていき……そして今度こそ、新手が現れることはなかった。
イナリの手に握られていた聖魔剣は、その役目を終えたからか、ほろほろと塵になって消えていく。
イナリがくるりと振り返る。
そこにいたローズはとてもすっきりとした顔をしており、彼女を見たイナリは、いつものような笑みを浮かべる。
彼の笑みは相変わらずどこまでも嘘くさく、それを見たローズが笑う。
二人がゆっくりと落ち着いて笑うことができる。
キルケランの脅威は去り、この街には平和が戻ってきたのだ――。




