貫く魔剣
レベルアップに伴い回復が行われ、全身に活力が満ちていく。
ゲームにも出現したカウンター特化の魔剣である柔剛の魔剣が解放され、新たなスキルも増えているのがわかった。
「ふぅ……」
「大丈夫ですか、イナリさん!」
ゆっくりと息を吐くイナリの方へ、ローズが急ぎ足で駆けてくる。
どうやら彼女もかなり限界ギリギリまで戦っていたらしく、既に足取りは覚束なくなっていた。
「そっちこそ平気なん?」
「もちろん……いえ、正直ちょっと、疲れました……」
「ん、まあ疲れとるのは僕も一緒。できれば連戦は勘弁して欲しいところなんやけど……とりあえずマクリーアと合流を……」
「そんなつれないこと言わないで。次は私と遊びましょうよぉ」
「「――っ!?」」
突如として聞こえてきた声に、イナリとローズは即座に戦闘態勢を取った。
二体目の上位魔族が現れることは事前に想定していたため、驚きはあっても身体が硬直することはない。
二人の前に突如として現れたのは、女性の魔族だった。
少し紫がかった肌をしており、着ているのは扇情的なレザースーツ。
拳に特製の包帯を巻いており、その拳は柔らかそうに見える肢体とは逆にゴツゴツと硬そうだった。
その瞳は怪しく青色に光り、服の裾からはくねくねと左右に揺れる尻尾が見えている。
「……嫌なタイミング狙うてくるなんて、やっぱり魔族は性格悪いなぁ」
彼女はサキュバスの上位魔族であるアルットだ。サキュバスにしては珍しく生粋の武闘派である彼女の誓約は、己と相手は互いの物理攻撃でしか傷がつかないというもの。
彼女は基本的に魔法を使わず、剣術で倒す必要がある。
けれどイナリはアルットの姿を見て、わずかに違和感を覚えていた。
(なんやろ、この感覚……)
彼女を見ていて感じる違和感の正体に気付くよりも早く、アルットがこちらに迫ってくる。
そのスピードは速い……が、カーマインよりも遅かった。
手を抜いているのかもしれないが、完全に武闘派であるアルットからすれば、あまりにも遅すぎる速度だった。
アルットの一撃を防ぐべく、剣を地面と水平に構えるイナリ。
アルットは拳を握ると、そのまま彼目掛けて拳打を放つ……ことはしなかった。
「んばあっ!!」
何をするかと思えば、彼女はいきなり口を開いた。
そしてその口からものすごい勢いで何かが飛び出してくる。
てらてらと光るそれは、透明な靄のような何かだった。
それは剣を構えていたイナリにべとりとくっつくと、ものすごい勢いで駆け上がり、イナリの口の中へと入っていこうとする。
「なんやこの技! アルットがこんなん使えるわけ……」
イナリは自身が感じていた違和感の正体に気付いた。
アルットはかなりおしゃべりな魔族であり、敵と戦う前にもぺちゃくちゃとおしゃべりをして先制攻撃をもらうような魔族だった。
それが一言も喋ることなく襲いかかってきた時点で警戒すべきだったのだ。
「そういうことか! 二体目の魔族はアルットやなくて……」
イナリの口に到着した青色の気体が、そのままずるりと体内へと入りこんでゆく。
必死に抵抗しようとするイナリだったが、抵抗虚しく侵入を許しガクッと首を落とす。
イナリはそのまま地面に倒れ込むと、ビクビクと全身を痙攣させ始める。
すぐ側にいるアルットは既に地面に倒れ込み、既にピクリとも動かなくなっている。
「イナリさんっ!」
「来るな、ロー……」
イナリが言い切るよりも早く、ビクンと一際大きく身体が跳ねる。
そして次の瞬間にはイナリはゆっくりと目を開き、何事もなかったかのように立ち上がる。
「イナリさん、一体何が……」
イナリに向かって駆けてくるローズ。
それを見たイナリはにやりと笑うと……
「魔剣、創造」
闇の魔剣を生み出し、そして……魔剣を無防備なローズの胸へと突き立てるのだった。




