盾
彼女の目の前に展開されるのは、彼女の全身を覆えるほどに巨大な光の盾。
白銀と金が織りなすように縁取られているその盾は、神域と同じく柔らかく、温かい光を発していた。
眷属と戦う中で習得した、上級魔法であるアイギスシールド。
顕現した白銀の盾はホイスの一撃を受け止め、続いてやってくるヴァルの水魔法までもきっちりと受け止めてみせる。
何度攻撃を繰り返しても盾の破れぬ様子に憤慨したヴァルは、未だその全身を黒炎に焼かれながらも魔法を連射し続け……
「――隙だらけやで」
ヴァルの胸部から、一本の剣が突き出る。
そして飛び出た魔剣から、紫電が迸った。
「ライトニングソード」
「ぐがあああああああっっ!?」
意識がローズに完全に集中しているおかげで、イナリは難なくヴァルの下まで辿り着くことに成功していた。
内側から焼く雷と、外側から焼く黒炎。
中からも外からもダメージを食らい続けることでヴァルの全身から黒い煙が立ち上っていく。
「ちっ……魔族を舐めるなよ、人間風情がッ!」
剣を突き立てるということは、それだけ間合いが近いということでもある。
後衛タイプでホイスと比べれば戦闘力は劣るとは言え、それでも魔族のタフネスは人間よりはるかに高い。
ヴァルはダメージに苦しみながらもぐねりと身体の輪郭を崩し、新たに生み出した触腕を使ってイナリの両手を拘束した。
ジュッと音を立ち、イナリの腕にダメージが入り始める。
スライムの持つ溶解液によって、彼の腕が赤くただれ始める。
けれど、イナリは少し眉をしかめただけで、ヴァルを振り払おうとしない。
それどころか彼はぐりぐりとひたすらに剣を使ってヴァルの内側を焼き続けていた。
「……なぜだ、なぜ殺せん!?」
「日頃の行いの差と違う?」
そう言って笑うイナリを見て、ヒッとヴァルが喉の奥を鳴らす。
己の不利を悟った彼はその場を離脱しようと動き出すが、ぐりぐりと剣を突き立てるイナリがそれを許さない。
もちろん日頃の行いの差などではない。
ダークネスフォグと黒炎があるせいで見づらいが、よく見れば彼の全身には黒い光がまとわりついている。
彼が身につけたもう一つの複合魔剣スキルであるダークヒールの効果は、一定間隔ごとの体力の回復。
それに加えて適宜ローズから飛んでくる回復魔法によって、彼はダメージを食らった端から回復しながら、無理くり攻撃を続けているのだ。
当然ながら痛みがなくなっているわけではないし、溶解液で焼かれている腕は今も激痛に襲われ続けている。
けれど彼はそれでも笑みを絶やさない。
己の不利を相手に悟らせず、相手にプレッシャーを与え続ける。
土壇場、土俵際のギリギリの戦いでは、そういった細かな要素が勝敗を決めることを理解していたから。
「ぐ……く、そ……」
どろりと、ヴァルの全身が大きく形を崩す。
彼は全身をそのままべしゃりと地面に倒し動かなくなった。
が、イナリはそこで手を緩めない。
彼は痛みに耐えながら駆ける。
するとその視線の先には、スキルを使いこの場を離脱しようとしていた小さなヴァルの姿があった。
「逃がさへんよ」
「ぐわああああああ!!」
きっちりとトドメを差してから、くるりと振り返る。
するとそこには言われた通りにローズに攻撃を繰り返しているホイスの姿と、攻撃を食らいながら回復も行っていたせいで既に顔色が青くなり始めているローズの姿があった。
「……よし、これで二対一やね」
「ぐ、ぐがががが……」
ホイスにもしっかりとトドメをさし、イナリ達は無事魔族の討伐に成功する。
彼らはそのまま魔力の回復を待ち、この街に潜伏している魔人をもう二体ほど討伐。
イナリはレベルを上げ、また新たな魔剣を解放することに成功する。
こうしてソレラの街での魔族討伐は無事に終了。
この街に巣くっていた魔族達の脅威は、大きな事件となる前に取り除かれるのであった――。




