ダークフレイム
スキルを発動させたその瞬間、剣先から黒い炎が飛び出してゆく。
それはまるで一匹の龍のように、その顎を広げながら一直線にヴァルへと飛んで行った。
「ちっ!」
ヴァルが腕を前に出すと、彼の目の前に水の壁がせり上がってくる。
水の壁と黒炎が激突し……一瞬の攻防の後に、黒炎が壁を貫通する。
「なんだとっ!? ……ぐああああっっ!!」
そして先にいるヴァルへと襲いかかる。
闇と炎の魔剣の複合スキル、ダークフレイム。
闇属性の魔力を持つ黒い炎を放つことのできるスキルだ。
この炎は通常の火炎より火力が高く、また一度引火すれば一定時間が過ぎるまで消えることはない。
簡単に言えば命中すれば常に火傷によるスリップダメージを狙えるスキルであった。
攻撃が命中したことを横目で確認しながら、イナリは自分とヴァルの方へ向かってきているホイスの方へ身体を向ける。
「お前……ヴァルいじめた! もうユルサないッ!」
ホイスが棍棒の持ち手を浅く変えた。
威力ではなく手数に重きを置くスタイルに切り替えたのだろう。
速度も先ほどまでと比べると明らかに早くなり、そのあまりの速度に棍棒がブレ始める。 残像を残すほどの高速で放たれる、棍棒の嵐。
イナリは即座に理解した。
(こりゃ……全部避けんの、厳しいなぁ)
最初の連撃をなんとかしのぐことができた時点で、イナリは全ての攻撃を避けることを諦めた。
彼は右手に雷の魔剣を、そして左手に光の魔剣を構える。
「アクセル」
速度のバフをかけると同時、イナリの身体が軽くなる。
全身から紫電を発しながら動くイナリは、先ほどまでは受け止めることが精一杯だったホイスの攻撃をしっかりとかわすことができるようになっていた。
「ぐっ、ぐぐぐっ! なんで当たラないっ!」
「うーん……やっぱりきっついなぁ」
後ろで黒炎の消火に勤しんでいるヴァルの援護がないおかげで、ホイスの攻撃はしっかりと裁くことができるようになった。
だが何度斬りつけても、刀傷は映像を逆再生するかのように、できた端から治っていく。
トロールは強力な自己再生のスキルを持っている。
以前戦った餓狼オーチャードと同じだが、回復の効率はあれとは比べものにならないほどに高い。
眷属であるエルナでさえ脳天に剣を突き立てても死ななかったのだ。
トロールの魔人ともなれば、そのタフネスはとてつもないものになる。
ただ攻撃をしているうちに、対処の方法はすぐにわかった。
イナリがライトニングソードで斬りつけたところに関しては、再生がなされていなかった。
恐らくだが炎や雷などで患部を焼いてしまえば、再生は効力を発揮しない。
イナリが切れたアクセルを再度かけ直し、ホイスの足下へ一撃を放とうとして……そのまま後ろに飛びずさった。
彼の前髪を何本か持っていったのは、三日月型の水の刃。
「おっと、危ない危ない」
見ればヴァルの身体からは黒炎が消えていた。
本来であればこれほど早く黒煙が消えるはずはない。
どういう手立てを使ったのかは、ヴァルの後方で未だ燃えている炎を見ればよくわかった。
(なるほど……燃えている部位を切り離したんか)
スライムは分離というアクティブスキルを使い自らの身体を変形、分離させることができる。
彼は燃えている部分を自身から切り離し、難を逃れたのだろう。
トロールと同様に高い再生能力を持つからこそできる荒技といえる。
逃れられてしまったせいでそれほどダメージは与えられていなそうだったが、分離を使ったせいでヴァルの肉体は先ほどと比べ少し縮んでいるように見える。
これを何度も繰り返すことができれば、ヴァルの脅威は大きく減じるはずだ。
けれど新たにヴァルが復帰したことで、イナリは防戦一方になる。
彼はとうとうホイスの一撃をかわすことができなくなり、いい一撃を右腕にもらってしまった。
ベキリと枯れ枝が折れるような音が鳴り、彼の額に冷や汗がにじむ。
「これで……」
「終わりダッ!」
ホイスの棍棒とヴァルの水の弾丸が、イナリへと襲いかかる。
そしてイナリに命中する、その寸前に……
「光、あれ」
長いこと祈りを捧げていたローズが、目を開く。
彼女を起点として一瞬のうちに拡がる、白銀の輝き。
ローズが参戦することで、天秤の傾きは再び動き出す。




