聖女とエセ関西弁 前編
【side ローズ・アルマリカ】
元々私は、小さな孤児院に預けられていた孤児だった。
そしてある時にその才能を見出され、以後は教会で暮らすことになった。
だから私に家はない。
私にとっては、聖教会が帰るべき場所だった。
私が発現したユニークスキルは、その名を『聖光の顕現』という。
これは簡単に言えば、光魔法を誰よりも上手く使うことができるという力だ。
基本的にユニークスキルは、シンプルであればあるだけ強い物が覆い。
私のスキルも例に漏れず、手に入れた者は必ず偉業を成せると言われるほどのスキルだった。
そんな珍しいものを持っている私は、当然ながら教会でも大切に育てされた。
専属の教育係をつけられ、みっちりと勉強と魔法を仕込まれる。
大人になった今ではあれがかなりのスパルタだったとわかるけれど、当時の私はそれに必死になって食らい続けることしかできなかった。
教会は私にとっての帰るべき場所で。
そこが私を拒絶してしまえば、私には帰る場所はなくなってしまうから。
努力の成果か下の才能かはわからないけれど、気付けば私は同年代の中でも類い希な才覚を持つようになっていた。
このままいけば次代の聖女は私になると、そう口々に言われるようになるほどに。
「聖女として生き、その使命を全うしなさい」
私の教育係だったシスターは、噛んで含めるように何度も何度も私にそう口にした。
聖女として戦地へ赴き、魔を滅するために戦う。
それこそが私の使命だと言われ、私はそれを信じて己の鍛え続けた。
そしてある日、教会に神託が下り、私は名実共に聖教の聖女となった。
そこから先に続いたのは、戦いの日々だ。
といっても私は最前線で戦うというより戦った聖騎士達を癒やすことの方がメインだったけれど。
教会という組織を出て、外の世界に出てからは、毎日が以前と比べると楽しかった。
同じものを信じる仲間が居て、彼らと共に旅をすることができた。
助けを求めている人達がいて、私達は彼らに救いの手を差し伸べることができた。
もちろん楽しいことばかりではなかったけれど、それでも築いてきた記憶は私にとっての宝物だった。
そう……宝物、だった。
けれどキルケランの街に行ったあの日、私が今まで築き上げてきたものの全てが、ガラガラと音を立てて崩れていってしまった。
聖騎士団というぬるま湯の中で過ごしていた私は、忘れていたのだ。
この世界には危険が満ち溢れているということを。
共に未来を語り合った同士も、私のことを慕ってくれる後輩達も……全員、やられてしまった。
皆で力を合わせても、手も足も出なかった。そして私は、何の役にも立たなかった。
一体何のための聖女だ。
私を逃がすために何人もの騎士達が死んだ。私に命を捨ててでも守るだけの価値があるのだろうか?
何もできず、ただ無様に逃げることしかできなかった私が?
援軍を呼ぶことは不可能だった。
今回行動を共にしていた者達は聖騎士団の中でも選りすぐりの者達ばかり。
彼らでどうにもならなかった以上、現状の聖教ではどうする手立てもない。
本当なら今すぐにでも国に要請を出し、軍を動かしてもらうのが最善なのだろう。
そう頭ではわかっていた。けれど私はそうはしなかった。
なぜか――そんなの、決まっている。
私が自身の手で、あの魔族を討ち取りたい。
あの魔族を誰かに倒してもらうだけでは、私の心は安まらないだろう。
たとえ差し違えてでも、一矢報いてやりたい。
死んでいった仲間達のために……なんてのは言い訳だ。
私はただ、あの魔族が許せなかった。
自分にこんなに醜い心があるだなんて、知らなかった。
皆は私のことを模範的な聖女だと口にするが、私ほど聖女に相応しくない人間もいないように思う。
全てが終わった時、もし私がまだ生きていれば……私は聖女の座を降りようと思う。
そう誓いながら、私はある種の狂気に駆られて街に潜伏した。
冷静な判断なんてものはなかった。私の心は、既に壊れてしまっているのかもしれない。
けれどその結果私は……彼と出会った。
どこか厭世的な不思議な雰囲気を持つ、イナリ・サイオンジさんに。




