vsオーチャード 後編
悲鳴に似た鳴き声を上げるオーチャード目掛け、マクリーアは高速の斬撃を放ってゆく。
元が軍属と言うこともあり、彼女のレベルはアラヒー高原で戦い続けているイナリより高い。
恐らくオーチャードと真っ向からぶつかり合うだけのスペックを持っているのは、現状では彼女だけだろう。
「ほら、こっちも忘れたら困るで!」
イナリが再び魔剣に水を纏わせ、振り下ろす。
飛びかかる蛇のように真っ直ぐとオーチャードへ向かい、先は移動を阻害するための足下……ではなく、彼が魔剣を突き立てた右頭へと食らいつく。
イナリの狙い通り、水を介する形でイナリと炎の魔剣に一本のラインが通った。
オーチャードが跳んで水から逃れるよりも早く、イナリは剣を通して水へと魔力を流し込んだ。
水のラインを通じて魔力が流れていく先は――イナリが突き入れた炎の魔剣。
イナリの魔力が流されることで、オーチャードの右の眼球に刺さったままになっている炎の魔剣が再び猛火を振るう。
「AGAAAAAAAAAA!!」
「よっしゃ、狙い通りや!」
再生が始まっているオーチャードの肉体の内側は、再び激しい炎によって焼かれ始める。
その様子を見てイナリは笑みを深めながら、そのまま接近しながら水の魔剣を振るった。
――先ほどイナリが思いついたアイデア。
それは『魔剣へ水を媒介にして魔力を供給することで、剣に触れることなく魔法剣を発動させるのでは?』というものだった。
魔剣で魔法剣を発動させる際は、魔法のように詳細なイメージを行ったりする必要はない。
魔力を込めるのには若干のコツがいるが、最近操作性がかなり上がっている水であれば媒介にできるのでは……というひらめきだったのだが、問題なく発動させることができて内心でホッと安堵する。
(これなら水を光の魔剣に伸ばしてヒールソードで回復させたり、闇の魔剣に伸ばして仲間の気配を消したりとか、色々応用も効きそうや)
早速応用しようかと頭を巡らせていると、攻防を続けているオーチャードの速度が突如として目に見えて落ち始めた。
大ぶりの攻撃をしながら背後を確認してみれば、そこには魔法を発動させ終えたミヤビの笑顔がある。
ミヤビが発動させたのは、彼女がレベルアップでではなく自力で覚えた魔法の一つであるディレイドブラストファイアボール。
大ダメージで燃費も悪くないが、スピードが極めて遅いために基本的に空いてから避けられてしまうノロマ魔法も、ミヤビが使えば別物へと化ける。
ミヤビのユニークスキルが発動し、魔法が対象へ向かっていく間の速度のデバフが発動。
更にゆっくりとオーチャード目掛けて進んでいくるディレイドブラストファイアボールは、器用にイナリとマクリーアを避けながらオーチャードへと飛んでいく。
目の前に現れる自分目掛けて飛んでくる巨大な火の玉を見れば、平静を保てるはずもない。
オーチャードは魔法から逃げるような動きを取るようになり、その転換はイナリ達が衝くことのできる多くの隙を生み出した。
イナリとマクリーアは誤爆に気をつけながら、オーチャードへと攻撃を続けていく。
オーチャードの防御力はたしかに高いが、それでも絶対防御能力があるわけでもない。
ダメージは少なくとも剣は突き立つし、ミヤビの魔法を食らえばしっかりとダメージは通る。
イナリは適宜魔力を継ぎ足してオーチャードに火傷によるスリップダメージを与え続けながら攻撃し、怪我を負ったマクリーアを回復、ミヤビに注意が向かないようヘイト管理を行いながら魔剣を振るい続ける。
「はあああっっ!!」
マクリーアが放ったグランスラッシュが、オーチャードの左の頭を切り落とす。
痛みに呻くオーチャードの態勢が崩れる。
「今ですっ!」
「これで……しまいやっ!」
オーチャードへ接近したイナリが、水の魔剣を残る左目に突き立てた。
そして完全に視力を失ったオーチャードの右手に回り、刺さったままの炎の魔剣を再びその手に握る。
「おおおおおおおおおっっっ!!」
魔力の譲渡は水を介しても行うことができるが、その効率はやはり直に触れるものと比べれば一段も二段も落ちる。
故にイナリはここで勝負を決めるため、全力で剣を突き入れる。
同時に今の己の出来る最大量の魔力を流し込む。
炎の勢いが一段と増し、そのあまりの熱にオーチャードの身体が炭化し始める。
「GA……U……」
そしてオーチャードはどさりと地面に倒れ……そのまま二度と起き上がることはなかった。
イナリがくるりと振り返り、拳を振り上げる。
マクリーアもミヤビはそれを見て、快哉を上げた。
こうしてイナリ達は無事アラヒー高原のボスモンスターである餓狼オーチャードの討伐に成功するのであった――。




