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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
第十九章 孫悟空と紅孩児
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【三百三十七 文殊菩薩、紅孩児を誘う】

 普賢菩薩は雲からおりると、武器である二対の剣、呉鉤剣を鞘から抜いて構えた。


「文殊、お前どっちいく?」


「とか言って、普賢はあのご婦人の剣に興味があるのだろう?」


「あはは、バレた?それじゃあ後はよろしくな!」


 文殊菩薩の言葉にニカッと笑うと、普賢菩薩は飛び出して行った。


「さて某も……遁竜椿よ戒めよ、疾!」


 文殊菩薩はクルクルと回していた輪っか状の宝貝を三つ、紅孩児に向けて放った。


 文殊菩薩の腕ほどの細さの輪は紅孩児に近づくにつれ大きくなり、頭からスッと入ったかと思うと紅孩児の肩、腹、足をキツく縛り上げた。


「わっ、なんだ!?」


 紅孩児はもんどり打って地面に転がった。


「紅ちゃま!」


 それまで争っていたがやはり子は可愛いのか、鉄扇公主は慌てて紅孩児の元へ行こうとするが、その前に普賢菩薩が立ちはだかった。


「奥さん、この普賢菩薩に少しお時間もらえませんかね?」


「何者!」


 鉄扇公主は驚いて青峰剣を大きく振るが、普賢菩薩はサッと身を屈めて避け間合いを詰めた。



 文殊菩薩の遁竜椿に拘束された紅孩児はようやく我に返り、頭が冷えたため辺りを見回す余裕を取り戻した。


 そこには死んだはずの孫悟空が甦り、仲間と共に喜んでいる姿が見えた。


 それを見て紅孩児は心底ほっとして、大きく息を吐いた。


(玄奘さまに不義理をせずに済んでよかった……!)


「落ち着いたか」


 文殊菩薩は紅孩児のそばにより、身をかがめた。


「あなたは……」


「某は文殊。かつて崑崙にいた仙人だが今は釈迦如来様のもとで学んでいる」


 そう言って文殊菩薩は紅孩児の戒めを解く。


「貴殿のあの様子ではまともに話ができぬと思ったのでな。悪いが動きを封じさせてもらった」


「そうですか……」


 文殊菩薩の言葉に頷き母親に初めて刃向かったことの重大さに今更ながら気づいた紅孩児は顔を青くした。


 きっと鉄扇公主は激怒して暴れているに違いない、と。


 しかし紅孩児が恐る恐る様子を伺うと、鉄扇公主は見知らぬ男と戦っていた。


「あれは普賢菩薩という。彼も某と同じく元は崑崙の仙人よ。今は其方に代わりご母堂の相手をしておる」


「……すごい……!」


 紅孩児は、あの鉄扇公主の神速に怯むことなく戦える存在が孫悟空以外居ないと思っていたので、驚嘆の言葉を漏らした。


 父親の牛魔王でさえあの速さに敵わず毎回怒鳴られ尻を叩かれていたというのに。


「時に、紅孩児とやら」


「あっハイ……なんでしょう」


「お主、我らと共に釈迦如来様の元へ行かぬか?」


 かしこまった様子で唐突に告げられた問いかけに、紅孩児は首を傾げた。


「お主は何やら悩みがあるようだな。あの母親の期待とお主自身のやりたいことがズレているようだ。しかし、お主自身も何をしたいのか分からず宙に浮いたような状態で落ち着かぬ。そのような様子が見受けられた」


「は、はい、その通りです。わたしは妖怪の王になる気はないのに、母は……」


「釈迦如来様もの元には、某と普賢以外にも多くの弟子たちがいる。彼らから話を聞くだけでも良い刺激になると思うが」


 文殊菩薩の申し出に紅孩児は俯いた。


 物心ついてから母親からは妖怪の王になるための勉強ばかりで、他の妖怪たちとの接触もほとんど許されなかった。


 威厳を保つために他の妖怪と気さくに接することなどはキツく禁じられ、破れば仕置きを与えられた。


 ただ、顕聖二郎真君だけは瑤姫の子ということで付き合いを黙認されていた。


「ご迷惑ではないでしょうか」


 おずおずと、上目遣いに尋ねる紅孩児に、文殊菩薩は「迷惑なものか」と言って頷いた。


「釈迦如来様は広く門戸を開いている。某も弟子になる前は議論をたくさんしたものよ。そうさな、お主の場合、まずは五十三人から話を聞いてみるといい」


「ダメよ!」


 そこへ普賢菩薩を振り切ったらしい鉄扇公主が話に割り込んできた。


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