【三百三十五 孫悟空、冥土の道を進み釈迦如来と会う】
孫悟空が顕聖二郎真君に言われた二又の道に差し掛かった時。
左はどんよりして鬱蒼としている道。
右は花々が咲き乱れる明らかに天国はこちら!という雰囲気の道だ。
「二郎真君は右に行けって言ってたけど……明らかに釈迦如来んとこに行きそうじゃねえか……」
孫悟空はウゲゲという顔をして左の道を見た。
「前みたいに地獄の閻魔をボコボコにして戻った方が早くていいや!こっちに行こう!」
孫悟空は手の骨をポキポキと鳴らし、鬱蒼とした道へ進んだ。
枯れ木ばかりの寂しい道。
見上げるとまるで血のような赤い空。
「地獄は近そうだな」
地獄へ向かうには不似合いな疲れ調子で孫悟空はつぶやいた。
「これ、お前が往く道はこちらではないと伝えたはずですよ」
突然話しかけられて誰だと思って顔を上げたら、真っ赤で不気味な空が光に割られ、神々しい後光を背負いながら釈迦如来が現れた。
灰色の雲は白く、後光の金色を映している。
それにしても相変わらずデカい。
釈迦如来の頭は雲を突き抜けており、かろうじて顔は目の前にあるような状態だ。
孫悟空は逃げる間も無くひょいと摘み上げられ、手のひらに乗せられた。
かつて孫悟空が釈迦如来によって五百年封印された時のように。
「おお悟空よ、死んでしまうとは情けない」
「……なんだよその言い草。俺様だって死にたくて死んだんじゃないやい!」
「須菩提から未来の世界では死者にこういうのだと聞きました」
(ったく、じいちゃんはしょーもないこと教えてんじゃねえよ……)
「ていうかなんでこっちの道にいるんだよ。俺様はてっきり……」
「あなたは私を避けるために左を選ぶと思ったのでしょう。顕聖二郎真君が知恵を働かせてくれたようですね」
まんまと顕聖二郎真君の策略に乗せられたと知り、孫悟空はため息をついた。
「こっちの道にアンタが出てくるなんて思わねえじゃねえか!クソ!」
「まあどちらを選んでも私のところへ来るようになっていましたけどね」
ニコリと笑う釈迦如来に、孫悟空は仏頂面で目を逸らした。
そもそも孫悟空はその昔、地獄で大暴れをしたことで出禁になっている。
閻魔大王も二度と孫悟空の相手をしたくないと釈迦如来に訴えたのだと釈迦如来から聞き、孫悟空はさらに頰を膨らませた。
「恨むなら自身の行いを恨みなさい」
「へーへーわかりましたよーっと」
「さて、斉天大聖ともあろうあなたが、牛魔王の子に負けたとは、太上老君も驚くでしょうね。あの八卦炉の炎を超える火力を放つとは」
「そうそう、あの紅孩児ってやつの出す火はほんとすごかったんだって!」
「負けて命を落としたとて、相手を褒めるとは。あなたも成長したと言うことでしょうか」
釈迦如来はふっと表情を和らげて言う。
「そりゃ俺様だって成長ぐらいするさ!」
「玄奘のおかげでしょうか。あんなに乱暴ものだったあなたとこうして会話が出来るだなんて、奇跡のようなものです」
「……なあ釈迦如来、俺様は前みたいに閻魔をぶっ飛ばして戻ろうと思ってたんだけどよ、アンタがここに来たってことはアンタが俺様を戻してくれるのか?」
「そうですねえ……まったく、玄奘を無事返せたと思ったら次はあなたですからねぇ……」
「なあ!もったいつけるなよ!ならなんでアンタはここに来たんだよ!」
「文殊菩薩と普賢菩薩がお前に話があるそうです」
そういうと、それぞれの雲に乗って文殊菩薩たちが降りてきた。
「よっ!魔羅戦以来だな孫悟空!」
普賢菩薩が気さくに片手をあげて挨拶をする。
文殊菩薩は無言で頭を下げて一礼をした。
「おう、久しぶりだな。で、話ってなんだ?」
「某たちはお前を屠った紅孩児を童子として迎えようと考えている。今から人間界に降り立つ故、お前をついでに送ろうかと思ってな」
「反魂香ならここにあるから、お前を体に戻せるぜ!」
「そうか!そりゃ助かるぜ!」
孫悟空は顔を明るくして喜び手を叩いた。




