【三百三十二 灼熱の手合わせ、紅孩児の本気】
紅孩児の武器は赤い柄に炎のように波打つ真紅の刃がついた、火炎槍と言う槍だ。
金の房飾りもあり、見るだけでも華やかだ。
火炎槍という名だけあり、紅孩児が槍を振るうと炎が生まれる。
槍の突きに加えて炎の追撃が入るという、なかなか厄介な武器だ。
「へぇ、なかなかいい槍捌きじゃないか!」
「あっ、ありがとうございます!」
孫悟空は如意金箍棒で火炎槍を受けながら紅孩児を褒める。
紅孩児は顔をパァッと輝かせてほおを赤くした。
紅孩児の戦いの腕は、さすがあの鉄扇公主と義弟牛魔王の子だと孫悟空は感心していた。
「お前の親父さんはとにかく力押しだったが、おふくろさんの賢さも貰ってるからきっとバランスがいいんだな」
「……」
しかし親のことを出すと紅孩児は途端に表情を曇らせる。
「でもこれだけ槍を扱えるのはお前が努力した結果だな!」
「へへ……ハイ!」
「じゃあお前の本気、俺様に見せてみろ!槍だけじゃなく、術の全てを俺様にぶつけろ!」
孫悟空は一歩深く前に踏み込み、紅孩児に如意金箍棒を突き出した。
「わかりました……わたしの本気、お見せします!」
紅孩児はそれをかわしてぐいと如意金箍棒を掴むと脇に挟んで固定した。
「んっ?!」
牛魔王の子だけあり、細身の割に力が強い。
孫悟空が押しても引いてもびくともしない。
(孫悟空さんは石でできた石猿だと言っていた。だから……!)
「三昧神火!」
紅孩児は指で輪をつくると口元にあて、フゥッと吹いた。
すると青と赤の混じる炎が生じ、あっという間に勢いよく孫悟空を包んだ。
「悟空!」
「お師匠さん、危ないって!」
それまで見守っていた玄奘が表情を青ざめさせ叫んだ。
そして二人を止めようと飛び出しかけたが、猪八戒と沙悟浄に引き止められた。
「離してください!悟空が、このままでは!!」
「あいつは太上老君の八卦陣の炎にも負けなかったんです。大丈夫ですよ」
「沙和尚、でも!」
炎に包まれている孫悟空は膝をつき、今にも倒れそうで、玄奘には演技に見えなかった。
紅孩児は火を吹くことに集中しているのか、孫悟空の様子には気づいていないようだ。
「紅孩児さま、もう決着はついたでしょう!おやめください!」
玄奘が叫ぶと、紅孩児はハッとして玄奘を振り返った。
するとようやく炎が消え、煤けた孫悟空が倒れた。
「わっ、ゴクウ!」
「おいおい、なんかまずいんじゃないの?!」
玄奘たちは孫悟空の元へと急いだ。
孫悟空は煤けた姿でぐったりと横たわっている。
「あ……っ、そ、そんな……!」
紅孩児は呆然としている。
暗く煤けた体は溶岩のように赤い光を明滅させている。
「お師匠さま、触れないように……」
沙悟浄が言うが、玄奘は構わず孫悟空の手を握った。
「熱っ……!」
触れた手のその熱気に、熱さに玄奘は一瞬顔を顰めたが、孫悟空の手を離すことはなかった。
「悟空、目を開けてください、悟空、悟空──っ!!!」
しかし玄奘が呼びかけても孫悟空は目を開かない。
苦しげに浅い呼吸を繰り返すだけだ。
「玉龍、あなたの力で悟空を助けてください!」
「む、ムリだよオシショーサマ、これはもう、如意宝珠の手に負えるキズじゃないよ……」
「でもその宝珠は私の命を救ってくれたじゃないですか……!」
「ごめんなさい……」
「孫悟空は石猿だから、人間のお師匠さんの致命傷を治すのとはわけが違うんです。剣による傷と、ドロドロに溶かされた状態どちらが修復しやすいか……」
俯く玉龍の肩に手を置き、猪八戒が呟く。
その時。
「ゲホッ、ゲホッ……紅孩児、お前の炎すげえなぁ……!ケホッ、お……師匠……様」
「……そん、ごくう、さ……わたしは……っ!」
「悟空!」
ようやく目を開いた孫悟空が口から煤を吐きながら話し始めた。
「てんじく、まで、お供できずに……すみません、どうかご無事で……おまえら、お師匠様を頼んだぞ」
掠れ声で呼吸音もおぼつかない。
「何言ってやかんだ!お前も一緒に行くんだろうがよ!」
「へっ……だとよかったんだけどよ……」
猪八戒の叫びに孫悟空は口角を上げて笑い、そのまま真っ黒な石になり動かなくなった。




