【三百三十一 孫悟空、玄奘に変化し紅孩児の望みを聞き出す】
玄奘は孫悟空と紅孩児の間に割って入り孫悟空を嗜めた。
「悟空、そんなに強い調子で言ったら、初対面の方は萎縮してしまいますよ」
「でもお師匠様、コイツは義理の甥っ子なんですよ。せっかくだし話をしたいじゃないですか」
「それならもう少し柔らかく、優しく接してあげてくださいよ」
「お師匠様みたいに?」
「ええ、私みたいに」
玄奘が返すと、孫悟空は難しそうな顔をした。
「お師匠様みたいに……?そうだ!」
うーんと唸った孫悟空は、玄奘に変化した。
「紅孩児とやら。我が師を救ってくれたこと、感謝します。……どうですお師匠様、こんな感じです?」
(私、いつもそんなに偉そうにしているのでしょうか)
玄奘が複雑な気持ちで孫悟空のモノマネに苦笑をしていると、玄奘の背後に隠れていた紅孩児が前に進みでた。
「いえ、当然のことをしたまでです。私の母のしでかしたことは謝罪してもしきれません」
孫悟空を前にした時とは違いハッキリとした口調で頭を下げて言う。
どうやら姿が違えば、紅孩児は孫悟空と普通に話せるようだ。
「お前のおかげで師の命が助かったのです。謝ることはありません。何か礼をしたいのですが、のぞみはありますか?」
「えっ!あ、あの……えっと……そ、その……」
だが紅孩児はまたモジモジし始めて、玄奘をチラチラと振り返る。
「宝ですか?花果山に預けている宝貝でもいいですよ〜」
「紅孩児さま、頑張ってください!」
孫悟空のモノマネに何か引っ掛かるものを感じながら、玄奘はあえて紅孩児には助け舟を出さずに拳を握って応援する。
ちゃんと自分の言葉で伝えなければならないと思うからだ。
紅孩児は当てが外れて驚いた顔を一瞬したが、決意をしたのか唇を引き結んで玄奘に変化した孫悟空に向き直った。
「わ、わたしと手合わせをしていただけますか」
「手合わせェ?」
孫悟空は紅孩児の望みに驚き変化を解いて紅孩児の顔を覗き込んだ。
「はわっ!」
「そんなことでいいのか?」
如意金箍棒をクルクルと回しながら孫悟空が言うと、紅孩児はコクコクと頷き、赤の映える槍を握った。
「へぇ、お前の武器は槍か。牛魔王は斧を使ってたなあ」
「りょ、両親と……同じものを使いたくなかったんです」
「ふーん」
「あの、父から孫悟空さんの話は幼い頃からたくさん聞いていました。あなたはわたしの憧れなんです……!手合わせ、よろしく……お願いします!」
「いいぜ、かかってきな!」
お互い武器を構えて向き合った。
「なになに、戦うの?」
そこへようやく気持ちが落ち着いたらしい沙悟浄を連れて玉龍と猪八戒がやってきた。
沙悟浄は玄奘のそばに無言で寄り添って立つ。
そんな沙悟浄に呆れた目を向け、玉龍は「そんなことよりも」とワクワクと目を輝かせて玄奘に訊ねた。
「紅孩児さまは昔から悟空に憧れていたんですって」
「ああ、あの赤いのの親父さんが悟空ちゃんの義弟なんだっけ」
猪八戒が顎の無精髭を撫でながら呟いた。
「さて、どちらが強いかな」
「モチロン、ゴクウに決まってるよ!」
猪八戒に玉龍が鼻息荒く言っていると、武器がぶつかる音が聞こえてきた。
「始まったな」
(ただの手合わせですが、怪我のないように……)
玄奘は無事を祈るためにそっと合掌して、二人の手合わせを見つめたのだった。




