【三百二十七 弟子たち、太上老君の館にて玄奘の行方を知る】
兜率天にある太上老君の館にある一室では、難しい顔をして玄奘の弟子たちが座っていた。
鉄扇公主が玄奘を連れ去った後、太上老君が孫悟空たちも兜率天の館に来るよう提案したのだ。
鉄扇公主の住処である火焔山に行くにも、孫悟空たちが満身創痍では歯が立たないだろうと考えてのことだった。
太上老君の館につくと、館の主人である太上老君は観音菩薩たちと話し合いがあると言って出ていってしまった。
みんな無言で椅子に座り机の木目に目を落としている。
普段はうるさい玉龍も、意識を戻さないまま鉄扇公主に連れ去られた玄奘のことが心配で館についてからもずっと口を開いていない。
中でも沙悟浄は目の前で玄奘が斬られたことや、命を落としかけたことに責任を強く感じていた。
(この俺がついていながら、お師匠さまを危険な目に合わせるなんて……)
沙悟浄の手には大量に出血し、玄奘の体温がみるみるうちに下がっていく感覚が残っている。
その上鉄扇公主に攫われるなんて、悔やんでも悔やみきれない。
「お師匠さま……」
沙悟浄が後悔に拳を握った時、部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。
「玄奘殿の居所がわかったぞ!」
洗い息をつきながら入ってきたのは太上老君だ。
「もしかしたらと思い顕聖二郎真君に三途の川に行ってもらっていたが、考えた通り玄奘殿が来たそうだ」
「えっ三途の川って……!」
太上老君の言葉に、四人は顔を青ざめさせた。
「安心しろ。玄奘殿は生きている。いまは鉄扇公主の息子、紅孩児の洞府である、枯松澗火雲洞に居る!」
「えっ?テッセンコウシュのお家はカエンザンだよね?なんで違うところにいるの?」
「さあ……くそ、鉄扇公主め、何を企んでいる……!」
玉龍が隣に座る猪八戒に尋ねたが、誰も理由を思い当たらなかった。
ただ、玄奘が生きているということを知れたのは、孫悟空たちに大きな希望になった。
「お師匠さまは無事……ならば早く迎えに行かねば!」
「ああ!さっさと行こうぜ!」
立ち上がって武器を持って言う沙悟浄の言葉に、孫悟空たちも立ちあがろうとしたところ、太上老君に止められた。
「まあ待て。そこへ行く前に狐阿七大王殿から話があるそうだ」
「話?んなもんお師匠様を取り戻してからでもいいじゃねえか!早く行かねえと、あの鉄扇公主の息子に何をされるか!」
孫悟空が息巻いて言い、外へ飛び出そうとした時。
「お待ちください、孫悟空様!」
部屋の前には両手を広げて立ちはだかる狐阿七大王がいた。
「この度は玄奘御一行様に我々は大変お世話になりました。ぜひ、こちらの剣を共にお持ちしていただきたく!」
「あ?剣?俺様には如意金箍棒があるから必要ないぜ」
「こちらを玄奘様の守りにぜひ」
「お師匠様が受け取るかな……剣だろ?怪我したら困るんだが」
孫悟空の呟きに沙悟浄をはじめ弟子一同は深く頷いた。
鉄扇公主に斬られた時の血の匂いは強烈で、剣なんか持ち歩いてうっかり傷でも負ったら妖怪を引きつけるかも知れない。
「こちらは退魔の剣としても優秀な剣です。きっと、あなた方の道中をお守りくださることでしょう」
「でもこの剣がないとあんたがこまるんじゃ?」
猪八戒が聞くと、狐阿七大王は首を振った。
「剣など他にいくらでもあります。どうかこの霊刀を、あなた方の旅の助けに」
「……」
孫悟空たちが顔を見合わせていると、太上老君が手を振った。
「もらっておけ。その剣は元々わしのものだから性能は折り紙つきだぞ。まあ、わしは薬の材料を切るのに使っていたのだがな。玄奘殿の怪我を心配しているのなら、鞘を固定して仕舞えばいい」
「わかりました。ありがたく頂戴します」
沙悟浄がそう言って懐にしまった。
「釈迦如来は今生の玄奘とお前たちに特別に目をかけている。玄奘の命を助けるために妙見たちも無理をさせられたようだ。二度はないと言われているから、心して旅をせよ」
「……わかってる!じゃあな太上老君、狐阿七大王!俺様たちはもう行くぜ!」
「全て終わりましたら必ず、姉たちと共にお礼に伺います。どうか無事に天竺まで行かれますよう、お祈りしております!」
狐阿七大王はそういってふかくあたまをさげた。
沙悟浄たちは孫悟空の觔斗雲に乗り込むと、紅孩児の住処である枯松澗火雲洞に向け出発したのだった。




