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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
第十九章 孫悟空と紅孩児
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【三百二十五 三途の川の番人】

 気がつくと玄奘は大きな川のほとりにいた。


 周りは霧が立ち込めていてよく見えない。


 その静かに流れる川の横に、一際大きな岩があった。


 その上には白い犬を連れた一人の男が座っていた。


 玄奘はそこへいかなければいけないようなきがして、早足で岩へと向かった。


「やぁ、玄奘ちゃん」


「あなたは……二郎真君?どうしてここに?」


「それはオレの台詞なんだけどなぁ」


 岩の上にいたのは顕聖二郎真君だった。


「オレはこう見えて仙人でもあり、河川の神でもあるからね。仕事でこの川の番をしているのさ」


 岩を降りた顕聖二郎真君は、宝貝であり愛犬でもある哮天犬をわしゃわしゃと撫でながら言う。


「二郎!」


 そこへ顕聖二郎真君の神鷹を肩に乗せた長い赤髪をした小柄な少年が現れた。


 色とりどりの貝や魚を詰めたカゴを抱えた少年は急いで走ってきたのか、荒い息をついている。


 彼の前髪は長く、その表情はよく見えない。


「二郎、来たって?神鷹に呼ばれたんだが!」


 少年は親しげに顕聖二郎真君に声をかけた。


 おそらく彼も神仙もしくは妖怪なのかもしれない。


「ああ、彼だよ。釈迦如来さまのお使いで天竺まで旅をしている玄奘ちゃん」


 顕聖二郎真君が玄奘の重要な役目をまるで親のお使いのように言うものだから、眉をひそめた。


 赤髪の少年は「ああ、この方が……」と呟いてカゴを抱えたまま玄奘のそばにやってきた。


 玄奘より頭一つ分小さい、玉龍くらいの背丈の少年だ。


 間近で見ると、赤い髪の色は沙悟浄よりも明るい色だった。


「申し訳ありません、あなたには、母がとんでもないことをしました」


 少年はそう言って深く頭を下げた。


 そしてお詫びのつもりだろうか、いっぱいになっているカゴを玄奘に渡そうとした。


「紅孩児、彼にそれを食べさせたら二度と戻れなくなるよ。なんのためにここに来たのか忘れたのかい?」


「あ、あぁ、そうだった。すまない」


 紅孩児と呼ばれた少年はハッとした顔をしてカゴの中身を全て川に戻してしまった。


 紅孩児は玄奘の足元に跪き頭を下げた。


「わたしがもっと母の期待に応えられていればあなたを狙うことなどなかったのに……命を落とすことになるとは……この場で謝って、償ってももどうしようもないことでしょうが……」


「ま、待ってください!命を落としたって、私が?」


「そうそう。ここはかの有名な三途の川だよ」


 聞き捨てならない言葉に、紅孩児の言葉を遮って顕聖二郎真君を振り返ると、哮天犬の頭を撫でながら軽い調子で答えてくれた。


「三途の川……?私は死んだのですか……?」


「君の服をよくみてごらん」


 顕聖二郎真君に言われ、玄奘が自分の服を見てみると、それは死装束であった。


「私は……?!」


 玄奘は崩れ落ちるように膝をついた。


 だんだんと記憶が蘇ってくる。


 狐阿七大王を逃すために囮になったこと。


 そして鉄扇公主に斬られたこと。


 まざまざと脳裏に浮かんだ光景に拳を握ると、石とは違う軽い感触がして、玄奘はそれを両手ですくった。


 白い玉砂利かと思えば、それは小さな骨のかけらだった。


 大きな川のほとりに広がる細かい骨のかけら。


 そこが今更ながら人の世でないことを思い知らされ、玄奘はうなだれた。


「でも幸運だね。オレと縁があったから、こうして玄奘ちゃんを足止めができた。オレとの縁がなければここでオレを見つけることはできず、この先の死出の旅に出なければいけなかったよ」


 哮天犬を撫でながら顕聖二郎真君は言う。


「君の無茶のおかげで釈迦如来さまも観音菩薩さまも大変でさ、どうにか君を逝かせまいとてんやわんやさ」


 顕聖二郎真君は苦笑していった。


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