【三百二十三 玉龍の如意宝珠にて玄奘、一命を取り留める】
鉄扇公主が青峰剣を振り下ろそうとした時、間一髪で孫悟空が間に合った。
孫悟空は沙悟浄たちに向けて振り下ろされた青峰剣を弾き返し、間に割って入った。
「俺様の相手を途中で放り出すなんて、義妹はつれねえなあ」
「あたくしは一途なんですの。夫以外と長い時を過ごす気はありませんわ」
鉄扇公主はそう言うと、玄奘の血がついた真っ赤な唇をペロリと舐めた。
「悟空……!」
沙悟浄は半泣きで悟空を見上げた。
「大丈夫だ悟浄!玉龍がお師匠様を助けてくれる!太上老君もいるから絶対に大丈夫だ!だからお前はとにかく止血をしてお師匠様に声をかけつづけてくれ!」
「あたくしの神速についてこれないのに、大口を叩いてよろしいんですの?玉果の血を口にしたこのあたくしは、今なら天帝すら凌ぐ力をもっていますのよ」
「うるせえ、知るか!行くぞ!!」
孫悟空が如意金箍棒をブンブンと振り回し、鉄扇公主を沙悟浄と玄奘から引き離す。
その時、猪八戒は気絶したままの玉龍の頬を叩き、強く揺さぶって起こしていた。
「玉龍ちゃん、玉龍ちゃん起きろ、早く!!
「いた、痛いよオジさん!」
「悪い!だが緊急事態だ!お師匠さんが斬られた!」
「えっ、うそっ!!!」
「そんな嘘言ってどうするんだよ!本当だって!早く如意宝珠を!」
玉龍か猪八戒の指差す方を見ると、血溜まりの中、真っ赤になった沙悟浄に抱えられている蒼白な玄奘の姿があった。
「オシショーサマっ!」
玉龍は叫ぶと慌てて如意宝珠を取り出し掲げた。
「如意宝珠よ、お願い!」
玉龍が祈ると、如意宝珠が輝き出した。
やがて玄奘から流れ出た血は全て戻り、傷口も全て塞がった。
玄奘の呼吸も浅くなく安定している。
切り裂かれた錦襴の袈裟も元に戻っており、玉果の匂いもおさまった。
「お師匠さま……!」
沙悟浄はほっとして、玉龍たちに大丈夫だとの合図を送った。
「よかつた、間に合ったみたい……」
玉龍はその場にへたり込み、猪八戒に支えられた。
「腰抜かしてる場合じゃねえぞ。オレたちもお師匠さんのところに行こう!」
「う、うん!」
猪八戒は玉龍の手を引いて玄奘の元へと駆け出した。
孫悟空と戦いながら様子を伺っていた鉄扇公主は、玄奘が回復したのをみてつぶやいた。
「あら、好都合」
「何が好都合だってんだ!」
「あたくしの本当の目的はあなた以外の抹殺。一箇所に集まってくだされば手間も減ると言うもの」
「なんだと?!」
「あなたは夫の義兄ですから見逃して差し上げようと思いましたのに……しつこく邪魔をされるとこまりますわ」
「ふざけるな!そんな事絶対に許さねえ!俺様は玄奘法師が一番弟子の孫悟空様だ!お師匠様も弟弟子たちも必ず守り切る!」
「できるものならどうぞ?」
涼しい顔をして言う鉄扇公主に、今度こそ鉄扇公主を絶対見失ってたまるかと、孫悟空は自身の毛を抜きフッと息を吹きかけた。
「身外身の術!」
すると五体の孫悟空があらわれ、鉄扇公主を囲んだ。
「八戒、玉龍、悟浄!お師匠様の守りは任せたぜ!」
そう言うと、孫悟空は取り囲んだ中央にいる鉄扇公主に向けて一斉に如意金箍棒を突き出した。
「まぁ、浅はか!」
鉄扇公主は踊るようにひらりとそれを跳んでかわし、如意金箍棒の上に爪先で立つ。
「はあっ!」
そしてさらに跳躍すると青峰剣を持って一回転した。
「ぐっ!」
青峰剣から放たれた衝撃波であっという間に孫悟空の分身は消えてしまった。




