【三百十七 玄奘一行、まとわりつく瘴気に苦戦する】
「それならさっさと争いをやめさせて、玉面公主を浄化しちゃえばいいんだよね!ね、ほらゴクウたちは行って!」
玉龍が手を振って孫悟空たちに行けという仕草をする。
「待てよ、それなら玉龍の如意宝珠で玉面公主の動きを封じちまえば早いんじゃねえか?」
孫悟空がそういうと、玉龍は腕を組んで首を振った。
「あのねえ、ボクの如意宝珠は壁の補修で力をかなり使っちゃったの。だからゴクウたちが頑張るしかなーいーの!それに壁に穴開けたの、誰だっけ、ねぇ?」
修復がものすごく大変だったと真顔になって、いつもより低い声で尋ねる玉龍に、孫悟空と猪八戒は玉龍の視線を避けるように明後日の方に視線を向けた。
「そ、それなら、力加減に気をつけねえとな」
「妖怪だから多少は頑丈だろうが、女人が相手だとやりづらいなぁ」
「ゴクウはもちろんすぐ行ってくれるよね?ボクは壁を直したんだから」
「玉龍しつこいぞ、俺様を脅すのかよ」
猪八戒と沙悟浄は難しい顔をして話し合い、玉龍に捕まった孫悟空はタジタジになっていふ。
その様子を見て、太上老君は呆れてため息をついた。
「お前たち正気か?お前たちならば玄奘殿を抱えて脱出するくらい容易だろうに」
「お師匠さんの頑固さを、太上老君さまはご存知ないようですね」
「そうそう、お師匠様の機嫌を損ねたら俺様の頭はかち割られ、会話は最低限しかしてもらえなくなり、終始仏頂面の地獄のほうがマシだと思えるくらいの苦行旅になっちまうんだよなー」
孫悟空が大袈裟に身振り手振りを加えていうと、ムッとしたように玄奘が不満の声をあげた。
「ちょっと、あなたの頭をかち割るとか、私そんなことをしたことなんてありませんけど?!」
「未遂でしたけどね」
孫悟空の言葉に玄奘は心当たりの出来事を思い出したのか、気まずそうに項垂れた。
「それにオシショーサマ、このまえゴクウがいなくなったとき……」
「お師匠さま、今は言い争いをしている場合ではありませんよ。さあこの争いを終わらせにいきましょう!」
玄奘をさらに追い詰めることになりそうな気配を察し、沙悟浄は玉龍の口を手で塞ぎ強引に話題を変えた。
太上老君は扇を開いて口元を隠し、「はーっ」と大袈裟すぎるくらい大きなため息をついてから扇を畳んで一向に向けた。
「よいか、お前たちは戦いが終わったらすぐにここを発つのだぞ」
太上老君の念押しに、玄奘たちは頷いた。
「まずは夫人と玉面公主を引き離そう。悟空と沙悟浄は二人の間へ。わしと八戒は金炉銀炉の元へ行こう。玄奘殿は彼女たちの動きを封じたらすぐ瘴気が祓えるように準備を。玉龍は玄奘殿を守れ。よいな」
太上老君の指示に一行は頷きそれぞれの持ち場へ向かおうとした。
しかし。
「邪魔は許さぬ!」
その気配を察知した玉面公主が扇をあおいだ。
扇から放たれた瘴気を纏った炎の球が玄奘たちの上に降り注ぐ。
「三人とも、早くなんとかしてよ!」
咄嗟に如意宝珠で玄奘を守った玉龍が叫んだ。
「なんだこれは。瘴気がベタついて……うまく斬れねえ!!」
猪八戒がうめく。
沙悟浄も降妖宝杖にまとわりつく瘴気に苦戦していた。
「疾!芭蕉炎扇風!」
太上老君が持っていた芭蕉扇を振い、まとわりつく瘴気を燃やし尽くした。
「わしが先行して瘴気を燃やす。後に続け!」
太上老君はそういって駆け出し、孫悟空たちもその後に続いた。
「オシショーサマ、今のうちに」
「はい」
玄奘は玉龍に頷くと、錫杖を打ち鳴らした。




