【三百九 太上老君、玄奘たちを救い出す】
「……ならば壊すか?」
沙悟浄が降妖宝杖を紫金紅葫蘆に向けて静かに言った。
本当は今すぐにでも叩き割ってしまいたいのだと、沙悟浄は殺気をこめて紫金紅葫蘆を睨みつける。
そんな沙悟浄を狐阿七大王は慌てて止めた。
「この宝貝は太上老君が作ったもの。壊れることはありますまい。それに中に吸い込まれた人間の身もどうなるか」
沙悟浄はハッとして項垂れた。
危うく玄奘の身を危険に晒すことになるところだった。
玉龍は天を仰いでため息をついた。
「そうだよね、もう一つのヒョウタンも壊せなかったもんね」
玉龍と共に羊脂玉浄瓶の中に閉じ込められた時も壊して脱出することは叶わなかった。
浅はかな己の考えを恥じ、沙悟浄は降妖宝杖を下ろした。
「でもさ、壊すのがダメならさ、おシショー様たちはどうやって助けたらいいんだろう」
玉龍が首を傾げていうと、孫悟空は閃いたとばかり、勢いよく挙手した。
「よし、俺様がこの中に入る!そして觔斗雲を使ってお師匠様を助ける!さあ蓋を開けろ!」
「え?!待てよ悟空ちゃん、中身は溶解液だらけなんだろ?大丈夫かよ……」
孫悟空は石猿だ。
多少なり、溶解液に耐えられるはずだと孫悟空は言い、さあ蓋を開けと孫悟空が狐阿七大王に言った時だった。
「待て」
そこへ息を切らして現れたのは太上老君だった。
普段は幼子の姿だが、いまは青年の姿になっている。
「どうやら、うちの童子たちが世話になったようだの」
「太上老君、テメェの弟子の管理はどうなってるんだよ!!」
孫悟空がつかみかかると、太上老君はげんなりとため息をついた。
「お前にそんなことを言われる日が来るとはな……どうやらわしが宝貝作りに夢中になっている間に、その宝貝を弟子たちが勝手に持ち出したようだ。責任を持って玄奘たちはわしがすぐに出してやる。そなたらは離れておれ」
孫悟空の手を払い、太上老君は紫金紅葫蘆を杖で叩き、何かの呪文を唱えた。
「この宝貝はな、虫食い花を参考に作ったのだ。中の溶解液を先に引かせてから出すから大人しく待っておれ」
食い入るように見つめる孫悟空たちに太上老君が言う。
そして。
「出よ、出よ」
トントンと二回杖で叩くと、瓢箪の栓が勝手にポンと飛び上がり、あっという間に中から玄奘たちが飛び出したのだった。
「お師匠様!」
「金炉、銀炉!」
金炉精と銀炉精を抱き抱えて出てきた玄奘はぼんやりとしていたが、弟子たちの声でハッとして笑みを浮かべた。
「ただいま戻りました」
命の危機にあったというのに、その呑気な物言いに、緊張が解けた弟子たちは大きくため息をついた。
「さて、金炉精、銀炉精」
太上老君が金炉精と銀炉精の前に立つ。
狐阿七大王に促され、ふたりは姿勢を正して項垂れた。
「お前たち、玄奘殿に言うことがあるだろう」
太上老君の言葉に顔を見合わせた二人は玄奘の方を向いた。
幼い見た目だが人の姿をとれるほどの妖力を持つ狐狸精だ。
孫悟空たちは玄奘を守るように武器を構えた。
「大丈夫ですよ」
玄奘は穏やかにそう言い、弟子たちに武器を下ろすように言う。
「玄奘様、助けてくださりありがとうございます。……いきなりさらって……ごめんなさい……」
金炉精が納得いかないようにポソポソと呟くように言い、形だけと言わんばかりに頭を下げる。
銀炉精も兄が頭を下げたのに合わせて同じく深々と頭を下げた。




