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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第八章 虹の羅針盤が指す方へ
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191話 灯火はまだ揺れている - 償いを願う声


夜明け前の森は、どこかしら緊張した空気に包まれていた。


アリアたちは村を出て、再び山道を進んでいた。


静寂を破るように、突如、木々の奥から呻くような声が響く。


「……助けて……」


微かな声に、ルクスの表情が強張る。


「この声……」


彼が駆け出すより早く、空間がざわめき、黒く染まった風が森の一角を裂いた。




現れたのは、ひとりの女性だった。


顔立ちは美しく整っていたが、肌は青白く、目元には深い隈が浮かび、腕には瘴気のような黒い文様が這っている。

その身体から漏れる気配は、不安定な星霊の力と、影の残滓が混じり合ったものだった。


「ミレイユ……!」


ルクスが名を呼ぶ。


彼女はかつて、影だった頃のルクスが“供給源”として扱っていた存在だった。




星霊を宿す素養を持ちながら制御が難しく、研究対象として幽閉されていた彼女に、ルクスは任務として接触していた。

当時は心を交わすことなど許されない状況だったが、日々の接触の中で、ルクスだけがミレイユの小さな声に耳を傾けるようになっていた。


「……ルクス……」


ミレイユの声は掠れていた。

けれど、その目に宿るのは、懐かしさでも救いを求める光でもなく、飢えと狂気に近いものだった。


「もう、いや……何も……見えないの」


彼女の背後で空気が歪む。


星霊の力が暴走しかけている――それも、本人の意志では抑えきれないほどに。


「来る!」


マコトが警戒の声を上げると同時に、エリオットが咄嗟に前へ出て、手を翳した。


「防御結界、展開!」


青白い光がアリアたちを包み、直後に放たれた瘴気の衝撃波が結界にぶつかって霧散する。


「ミレイユ! やめて、君は……!」


ルクスが叫ぶ。




しかし、彼女の身体は既に自己崩壊寸前だった。星霊の核と影の毒素が混ざり、内部から肉体を蝕んでいる。


「怖いの、痛いの……ずっと……ずっと……」


彼女の言葉は断片的だった。

けれど、その一語一語が、ルクスの胸を深く抉った。


「……わたしが、あの時……手を取っていれば」


「ルクス、今さら自分を責めるな」


マコトが声をかける。


「だがこれは“救う”とか“贖う”とか、綺麗事だけで済む問題じゃない」


「それでも……!」


ルクスは一歩、前へ踏み出した。


「それでも、わたしは彼女を助けたい!……あの時、誰にも手を伸ばせなかった。だから、今だけは……!」


アリアがその背中を、しっかりと見つめていた。


「わたしも、信じたい。救えなかった過去があっても、今のあなたが誰かを救えるなら、それは“過去”とは違う道になる」


結界の内側で、ミレイユの身体が軋む。

全身に走る黒い文様が脈打ち、星霊の力が暴発しそうになっていた。


「アリア、これは……」


エリオットが額に汗を浮かべ、問いかける。


「封印する? それとも……」


アリアは一瞬、言葉を詰まらせた。

しかしすぐに、静かに答える。


「……まず、話そう。彼女が、どこまでわたしたちの声を受け取れるか、試す」


「ミレイユ。あなたは、いまも苦しい? でもね……」


アリアはそっと、手を伸ばした。


「あなたの“灯火”は、まだ……完全には消えていない」


その言葉に、ミレイユの肩が、ほんの僅かに揺れた。




そして――


影と光の狭間で、彼女の瞳に、ほんの一瞬だけ、人としての“記憶”が宿った。


その小さな揺らぎを、ルクスは見逃さなかった。


「アリア……ありがとう」


彼女の声が、確かにその場の空気を変える。




消えかけていた灯火が、再び揺らめくように、


森の奥に、静かに、風が通り抜けていった。






―――192話へつづく



✪読んでくださり、ありがとうございます。

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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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