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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第八章 虹の羅針盤が指す方へ
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189話 再び、風が鳴る - 封じる者と護る者


古い街道跡を、風が吹き抜けていく。

かつては旅人や商人で賑わった道も、いまは風にさらされた石畳が、ぽつぽつと草に埋もれている。


一行は山道を抜け、この寂れた道を歩いていた。足取りは静かで、誰もが少し前の湖畔での会話を胸に抱いていた。


ふと、ルクスが立ち止まる。

何かに導かれるように、森の奥へ視線を向けた。


「……風の流れが、変わった」


彼の言葉に、全員が足を止める。

その先、木々の間から白い衣がひらりと翻った。


一歩、また一歩。


現れたのは、まだ幼さの残る少女だった。

初めて見る顔――だが、彼女はわずかに目を細める。


「……会いに来たわけじゃない。ただ、あなたたちの歩くこの先に、また“門”があるから」


その声には、警戒と覚悟が滲んでいた。


「そして……ルクス。あなたの中にあるものを、私は見過ごせない」


少女――ティナは、まっすぐルクスを見据えたまま、一歩も引かない。

その瞳には、ただの幼さではない、強い意志と恐れが同居していた。


「……わたしが……何かを継いでいるのは、わかってる。でも、それが何なのか、まだ……」


「封じる者は、知っていなければならない。どれほどの過去を、痛みを、そして犠牲を重ねて、その力が“閉じ込められた”かを」


ティナの言葉は、感情を抑えているようでいて、その奥に揺れるものがあった。


「あなたたちは知らないの。その力が、過去に何をもたらしたか」


その言葉には、どこか個人的な痛みが混じっていた。アリアはその気配を感じ取る。




「……あなたは、その過去を知っているのね?」


ティナはわずかに睫毛を伏せ、低く答えた。


「……星霊を封じる役目は、代々受け継がれてきた。わたしの家も、例外じゃない。だけど、かつての戦で、封印が破られたとき……わたしの母も、姉も、命を落としたの。守りきれなかった」


一行が息をのむ。


「それ以来、わたしは教えられてきたの。“力をもつ者は、また世界を壊す”って。……信じた人たちが、それでもなお、悲劇を生んだのよ」


その声には、怒りというより、深い哀しみと諦めが滲んでいた。




アリアが一歩、ふたりの間に入る。


「……だからこそ、今、ここにいるの。私たちは“未来を選び直せる”と信じてる」


ティナは黙ってアリアを見つめた。

冷たい風が、草を揺らし、木々の葉をざわめかせる。


「その“信じる”という言葉が、どれだけ無力か、あなたたちが知らないことを……願いたいわ」


空気が張り詰める。


ルクスは一歩前に出ようとするが、エリオットがそっと腕を伸ばして彼の肩を押さえた。


「焦るな。……言葉の隙間には、まだ余白がある」




その隣で、イリスがぽよん、と控えめに跳ねる。


「……っ」


ティナの眉がわずかに動いた。


その様子に、アリアが小さく笑った。


「この子がね、よくそうやって空気を変えてくれるの。無理に緊張を解こうとしないで、ただ“その場にいる”ことが……時には、いちばんの対話になるのかもしれない」


ティナはしばし沈黙した後、ふっと視線を落とす。


「……少なくとも、あなたたちは、話をしようとする人たちだ。それだけは、わかる」


ルクスが口を開く。


「わたしは、自分の中にある力を、まだ全部はわかっていない。でも、それを無視しないって決めた。ちゃんと向き合いたいんだ」


「……希望を知る者が、かつて闇を封じた。あなたたちが、その逆をしていないと……願いたい」


ティナの声は、風に溶けるように静かだった。


「私たちは“今を生きる者”として、あなたと未来をつなぎたい」


アリアの言葉に、ティナはわずかに目を細める。


風が静かに鳴った。


イリスがふわりと光をまとう。青白く淡いその輝きが、ゆっくりと空気を染めていく。


ティナは、その光をじっと見つめ、小さく頷いた。


「……じゃあ、次は森の門で会いましょう」


そう告げると、彼女は木々の間に消えていった。




その背中に、マコトが静かに目を細める。


「“門”……気になるな。封印にまつわる何かか」


エリオットもまた、唇を噛みながらつぶやいた。


「ティナ……あの少女の目は、本気だった。何かを守るための覚悟……俺たちと同じか、それ以上だ」


「でも、どこかで救いを求めてる目だったよ」


シュウが呟く。


「話せてよかった」


「うん」


アリアがそっと頷いた。




残された風の音が、草をなで、葉を揺らす。


まるで、次なる出会いの予感を囁くように。






ーーー190話へつづく

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