186話 神殿への道、ひとつの答え - 星霊の呼び声と“交差点”の存在
沈黙する空の下、風さえも凪いだような山奥の遺跡に、一行は足を踏み入れていた。
「……ここが、神殿の跡地」
アリアの言葉に、誰も応えなかった。
空気が、重かった。
音が吸い込まれていくような静けさに、モルンが落ち着きなく尾を振る。
「気配が薄い……いや、逆か。何かが深く沈んでる」
マコトが目を細める。
祠のような構造物の前に、石造りの台座と、崩れかけた柱。
その足元に、半ば土に埋もれた封印装置の破片が転がっていた。
ルクスがゆっくりとその前にしゃがみ込み、手をかざす。
指先がかすかに触れた瞬間——
「……!」
パチッ、と小さな火花のような光が走り、装置の破片が淡く光り出す。
「呼んでる……誰かが、ここで……」
ルクスの声は掠れていたが、その表情は確かに何かを“感じ取って”いた。
すると、石の隙間から、かすかに光の筋が伸びる。
台座の下。
古代文字のような模様が、淡く浮かび上がった。
「星霊文字だ」
すぐに駆け寄ったエリオットが、魔術解析用の水晶を取り出し、光の痕跡を辿っていく。
「これは……星霊装置の原型。今より遥かに古い構造だけど、精緻にできてる。封印と、呼び声の共鳴……まさか、星霊と直接繋がっていたんじゃ……」
その時、ルクスの背中にうっすらとした光が差した。
星の痕跡のような、淡い紋が浮かび上がる。
「ルクス……それ……」
アリアが思わず息を呑み、声をかける。
彼自身も気づいていたようで、そっと手を背に当てる。
そこに、冷たい光が確かに存在していた。
「俺の中で……何かが目覚めかけてる。これは……」
「……お前は“何か”を継いでる。けどそれは継承というより……始点のような」
マコトが低く呟いた。
ルクスは“異質”だった。
それはこれまでも薄々感じていたことだったが——星霊と直接交信するようなこの反応は、その疑念を確信に変えた。
そして、その“目覚め”に呼応するように、今度はアリアの足元に、淡く光る紋様が現れる。
「……えっ?」
彼女のまわりだけ、風がそっと揺れるように空気が変わる。
まるで“何か”が集まってくるような、でも、それは結びつくのではなく——
「……繋がってない。集まってるだけ。結ばれるわけじゃなく、触れては離れて、また寄ってくる……」
アリアの中に、どこか懐かしい感覚が流れ込んでいた。
言葉にならない何かが、胸の奥で脈打っていた。
「……私は“継ぐ”んじゃない。“集まる場所”なのかもしれない」
彼女が呟くと、ルクスがそっと頷いた。
「始まりと終わりが交差する場所……君が、その場所なんだね」
静寂の中、ふたりの声だけが響いた。
「そうだとしたら……わたし、ここに来た意味がある」
アリアは静かに目を閉じ、祈るようにその光を見つめた。
彼女の中にある“何か”が、まだ目を覚ましきっていないとしても。
今、この瞬間に集まる意味が、確かにあると信じた。
そして、モルンがくんくんと台座の隙間を嗅ぎ始める。
「何か……ある?」
アリアがしゃがみ込むと、石の下にひっそりと残された刻印のようなものが見えた。
風化しかけたそれは、ほんのわずかに残された“記憶”のかけら。
「ここは……記録じゃない。呼び声そのものだ」
エリオットが囁く。
その言葉を最後に、再び風が吹き始めた。
沈黙していた空が、そっと息を吐いたかのように。
旅は、確かにこの場所から“新しい答え”を生み出し始めていた。
ーーー187話へつづく
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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




