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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第八章 虹の羅針盤が指す方へ
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179話 ルーンの遺構と失われた声 - 音に刻まれた記憶


苔むした石の柱が並ぶその先に、一行は足を踏み入れた。


森を抜けた直後の光がまだ眩しく、霧に閉ざされていた感覚が抜けきらないまま、アリアたちは静かに遺構の中へと進む。


「……ここ、何の建物だったんだろう?」


アリアがぽつりと呟く。


石造りの広間には天井がなく、崩れたアーチの間から空がのぞいていた。柱や壁には見慣れない文字と紋様が彫られている。


「古代の……ルーン文字?」


エリオットが目を凝らして、彫刻をなぞる。


「似てるけど、少し違う。記録に残っているどの形式とも違うような……」


彼の言葉に、マコトが肩越しに覗き込んだ。


「この遺跡、魔力を帯びている。気をつけろ」


「うん、確かに。結界……というより、何かを封じてるような、そんな空気」


アリアが慎重に周囲を見回す。





イリスが小さく跳ねて、広間の奥へ進む。


「ぽよっ」


その声にアリアが振り返ると、イリスの体がうっすらと光っていた。


「……? イリス?」


すると、イリスの身体の奥、核の部分が淡く明滅し始めた。


「反応してる……?」


エリオットが驚きに目を見開く。





その視線の先、イリスがぴたりと止まった場所に、小さな水晶のような結晶が落ちていた。


それはまるで、風に触れたように微かに震えていた。


「これは……音の結晶かもしれない」


エリオットがそっと拾い上げる。


「かつて、星霊たちと人間が情報を交換する手段として使っていた記録装置。理論上は存在してるとされてたけど……本物を見るのは初めてだ」


「すごい……。じゃあ、これに“声”が入ってるの?」


「うん、音の記憶……たぶん」


アリアがそっと手を伸ばす。


その指先が結晶に触れた瞬間、空気が震えた。





――しん、とした静けさの中に、柔らかな音が生まれた。


《我らは願う。人と星霊、互いを知り、響き合う未来を――》


透き通った声が、空間に響いた。

言葉ではなく、想いの波が、耳ではなく心に届くような不思議な感覚。


《共に在ることは、力ではなく、理解の積み重ねである》


まるで祈りのように、優しい声音だった。





「……これ、まさか……星霊との共存の記憶?」


アリアが息を呑む。


隣で立ち尽くしていたルクスが、小さく震えながら声を絞り出した。


「……この記憶……わたし、知ってる」


全員が一斉に彼女を見た。


「前にも、こんな光景を夢で……でも、夢じゃなかった。あの声……あの場所……私、いたんだと思う」


彼女の瞳に、確かな記憶のような光が宿る。


「じゃあ……ルクスは、過去の記憶を持ってるの?」


アリアが問いかけると、ルクスは小さく頷いた。


「私……星霊として、ずっと眠っていて……けど、その前に、何かを守ってた気がするの」


「“星霊の記憶”……」


エリオットが低く呟いた。





その言葉が、この旅の新たな目的を照らし出す。


「この場所は、ただの遺跡じゃない。きっと、“思い出すため”の場所だったんだ」


アリアが結晶を見つめながら、そっと語る。


「失われた声を、また聞くために」


ルクスが結晶にそっと手を重ねる。


その瞬間、微かな光が再び広間を照らした。


柔らかで懐かしい記憶が、ひとつひとつ、呼び覚まされていくように。





そのとき、背後で静かに誰かが足音を立てた。


「……誰?」


シュウが低く声を発し、身をすくませた。


だが現れたのは、ただの幻影だった。


小さな子どもと、星霊らしき存在が手を取り合い、何かを笑いながら語っている。


言葉は聞こえない。


けれど、その笑顔だけは確かに伝わってきた。


「……過去の記憶の再生……?」


マコトがつぶやく。


アリアはそっと微笑んだ。


「きっと、これも“音の記憶”。誰かが、大切な思い出を残そうとしたんだね」





イリスが「ぽよ」と鳴き、ルクスはそっと手を握った。


「まだ……全部、思い出せない。でも、わたし……この旅の中で、思い出していく」


「うん。きっと、その記憶が未来を繋ぐものになる」


アリアが優しく応えた。




遠くの空が、静かに鳴った。






ーーー180話へつづく


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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