表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第八章 虹の羅針盤が指す方へ
183/338

178話 霧の森、沈黙の小道 - 光と声を奪う場所


森に入って、最初に違和感を抱いたのはアリアだった。


「……音、しないね」


焚き火の消えかけるような、あの微かな風の音さえもない。


鳥の声も、虫の羽音も。自分の足音さえ、どこか薄い膜の奥で響いているようだった。


「森って……普通はもっと騒がしくない?」


エリオットが小声で呟く。

だがその声すら、すぐ霧に吸われて消えるような気がした。


イリスが跳ねる「ぽよっ」という音も、どこか鈍い。


「……精霊の気配も、ほとんど感じられない」


ルクスが周囲に目を細めながら、低く言う。


モルンは羽をすぼめ、気配を潜めてアリアの肩に降り立った。


「なんだろう、変な感じ。言葉が……重いような」


アリアの声も、聞こえてはいるのに、胸に届いてこない。





「ここは“音”を……遮ってるのかもしれない」


ユリウスが眉をひそめ、静かに言った。


マコトは周囲を睨みながら、片手で剣の柄に触れる。


「それだけじゃない。この霧……目も、狂わせてる」


実際、少し離れると姿がぼやけ、隣にいるはずの誰かが妙に遠く感じる。

音も、距離感も、狂っていた。






「イリス……? どこ?」


アリアが足元を見回しても、イリスの姿が見えない。

先ほどまで確かに肩の上にいたはずなのに、ふとした瞬間に気配が薄れていた。


「ぽよ……」


微かに聞こえた声の方を見ても、姿は見えない。





【イリス視点】


ふわふわした感覚のなかで、イリスは辺りをきょろきょろと見渡していた。

ぽよん、と跳ねても、地面の感触が曖昧だ。霧が濃すぎて、何も見えない。


アリア……どこ?


言葉にはできないけれど、胸の奥から不安がじわりと滲む。

跳ねても跳ねても、誰にも届かない。音が、届かない。


ぽよ……と小さく鳴いても、それは自分にすら聞こえにくかった。





【モルン視点】


空を駆けようと羽ばたいた瞬間、モルンは身体を強く揺らされた。

空気が重い。流れが不規則だ。


それでも、地上が見えないのが不安で、何とか翼を広げ、風を切って進もうとした。


……あれは?


枝の影に、小さな影が見えた気がした。だが霧にかき消され、すぐに見失った。


くちばしを鳴らして周囲を探るが、羽音が届くはずの距離でも、気配が曖昧に揺れていた。


結局、彼は地上へと降りざるを得なかった。






「モルン……上から見てくれる?」


と頼んだものの、モルンも羽をばたつかせてすぐに降りてきた。


「ダメだ……空の気流も、おかしいみたい」


アリアは唇を噛んだ。





「星霊の力が……押さえ込まれてる。わたし、うまく見えない」


ルクスの声に焦りが滲む。


「何かが、この森そのものに干渉してる。普通じゃない」





そのときだった。


ぎゅう、と胸の奥がつかまれたような感覚。





ルクスが苦しげに額を押さえ、膝をついた。


「ルクス!」


アリアが駆け寄ろうとした瞬間、ルクスの手のひらから、淡い光が零れ落ちた。


霧が、少しだけ揺れた。


「……私、こんな力……」


戸惑いと痛みが混ざった声。


「ダメ……もっと、光を……!」


ルクスが目を開いた。その瞳が、白く瞬いた。


光が爆ぜる。


まるで夜明けが一瞬だけ落ちてきたような、柔らかくも鋭い光。


霧がはじけ、ざぁっと引いた。


視界が開け、音が戻る。

鳥のさえずりが、遠くから届いた。




「……やった、の?」


エリオットが言う。


「まさか……あんな力、ルクスに……」


ユリウスが目を見開いたまま、小声でつぶやく。


「ルクス、大丈夫か?」


マコトが駆け寄る。


ルクスは立ち上がったが、顔は蒼白だった。


「……また、私……制御できてなかった……」


その手を見つめる指先が、微かに震えている。


「でも……守ってくれた」


アリアがそっとその手に自分の手を重ねた。


「ありがとう、ルクス。おかげで……助かったよ」


「……うん」





ルクスは頷いたが、どこか遠い目をしていた。

その瞳の奥に、自分への恐れが滲んでいた。


その先に、森の出口が見えた。






薄日が差し込むその先に、苔むした石の柱がいくつも並んでいる。


「……遺構?」


シュウがぽつりと呟く。


「かなり、古いものみたいだね」


マコトが警戒するように目を細める。


かすかに風が吹き、草を揺らす音がした。


ようやく、音のある世界に戻ってきた。



だが同時に、音のない世界で見たものは、それぞれの胸に深く刻まれていた。





ーーー179話へつづく


✪読んでくださり、ありがとうございます。

★評価•リアクション(絵文字)・ブックマークしていただけると、ランキングに反映され、作者の励みになります♪



※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ