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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第八章 虹の羅針盤が指す方へ
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169話 星の祭壇にて - 記憶と契約の欠片


“月の門”を越えた先に広がっていたのは、静寂に包まれた古代の祭壇跡だった。


崩れた石柱、苔むした床、そして中央に、星形に割れた祭壇がある。





モルンは無言のまま、その中心に近づき、ふわりと伏せて目を閉じた。


アリアがそっとその後を追って歩み寄ると、空に淡く昼の星が瞬くような光が浮かび上がる。


「……ここは、記憶の眠る場所」


アリアの唇が、自然とそう動いた。


祭壇の中央に、まるで埋もれるようにして残されていた小さな欠片。


それに触れた瞬間、アリアの胸に鋭い痛みと、どこか懐かしい感情が流れ込んできた。


──カメリア。


白銀の髪を揺らしながら、彼女はこの祭壇に一人で立っていた。 その手には星の欠片。祈りを捧げるように目を閉じ、何かを「封じた」場面。


その姿は強く、美しく、そして深く悲しかった。


アリアの胸に、彼女の痛みが静かに染み込んでいく。


「誰かのために祈って、選ばなかった未来があった……でも、私がいま歩いているのは、その選ばなかった未来の果て」


彼女の記憶と願いが、アリアの中でひとつになろうとしていた。






その時、ユリウスが祭壇の周囲に刻まれた文様を見つけ、指でなぞる。


「これは……星霊との誓約陣かもしれない。精霊ではない」


エリオットが頷きながら応じた。


「たしかに。自然の四大精霊とは違う。ここに記されているのは、“巡り”“記憶”“選び”……それらを司る存在だ」


アリアはふと、モルンの姿に目を向けた。 その姿は、ただの守護ではなかった。


「モルン……あなた、精霊じゃないの?」


声に出した瞬間、自分でも驚くほど強く胸が鳴った。

イリスや風の精霊たちが持っていた、あの透明な“自然”とは異なる気配。


モルンは、もっと深く、もっと星に近い存在だ。






ユリウスが星形の配置を見て言った。


「これは“星霊との誓約陣”かもしれない」


その言葉に、誰かが静かに息を呑んだ。





マコトが、剣を抱えたまま、崩れかけた柱を見つめる。


「……これは、戦では守れなかったものだ」


その声は、まるでどこか遠い過去に向けられた独白のようだった。


アリアがそっと彼の横顔を見る。


マコトのまなざしは、どこかに祈りの残響を追うようで――その瞳には、かつて焦土と化した祈りの地の記憶が宿っていた。


「昔、戦火の中で……ある民が、自らの祈りの力で精霊と契り、村を守ろうとした。だが……間に合わなかった。俺たちは……」


そこまで言いかけて、彼はわずかに首を振った。


「剣を振るうだけでは、守れないものがある」


その言葉の重さに、誰もが静かに耳を傾けた。





そして今、アリアがいる。


彼女は、戦いではなく“祈り”でこの地に光をもたらそうとしている。


マコトの拳が、剣の柄をぎゅっと握りしめる。


「……今度こそ、守りたい」


アリアは静かに頷いた。


「わたしも。選ばなかった未来のためじゃなく、“選びとる未来”のために」





アリアは、自分の中に湧きあがる祈りの形を感じながら、“星の欠片”を胸に当てた。


その瞬間、モルンの体にふわりと金の光が灯る。 それは癒しではなく、記憶を照らす“祈りの光”。


「……くぅ〜ん」


モルンが優しく鳴き、アリアの肩に跳び乗った。


その背には、今にも消えそうな星の灯が、確かに揺れていた。






祭壇の端に、風化した文字がかすかに刻まれていた。


「星巡りの第二の門、“焔の谷”へ至れ」


ユリウスが地図を広げ、地形と照らし合わせる。



「……あった。ここから東、火山帯の縁にある渓谷だ」


アリアはそっと、星の欠片を握りしめた。



「この道の先に、あの人の祈りの続きを……探しに行きたい」






“星霊契約”。


それは、ただ力を借りるためのものではない。

過去と未来の間に横たわる、選ばれなかった可能性たち。

それに向き合い、意味を繋ぎ直すための誓い。




アリアの旅は、今まさにその扉の前に立っていた。






──170話へつづく




✪読んでくださり、ありがとうございます。

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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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