157話 導くものとして - 選ばれるのではなく、選ぶ
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朝靄が晴れ、ウィスタ村に柔らかな光が差し込んだ。
村を包んでいた不安の色は、少しずつ溶けていき、代わりに静かな安堵が広がっていた。
広場の片隅。アリアは焚き火の残り香の中に立っていた。
ふと、村の長老が静かに近づいてきた。しわの刻まれた顔に、穏やかな光が宿っている。
「アリア殿。よくぞ、この村を救ってくださった」
「……私は、大したことはしていません。ただ、手を伸ばしただけです」
「それが、なにより尊いのです」
長老はそう言って、アリアの隣に腰を下ろした。
風が、ほんの少し、花の香りを連れて通り過ぎていった。
「ひとつ、聞いても?」
「……はい」
長老は目を細め、まっすぐに問いかけた。
「あなたは、これから何を望みますか?」
アリアは、言葉を失った。
風が止み、時間がふと止まったかのように思えた。
何を望むのか。どうなりたいのか。
それは、誰かに委ねるものではない。 選ばれることではなく、自分で選ぶこと。
目を伏せたまま、アリアは胸の奥に沈めていた想いにそっと触れた。
──かつて私は、誰かのために祈ることで、自分を保っていた。
──でも今は、少し違う。
ゆっくりと顔を上げると、アリアの声が風に乗った。
「……私は、もう“ただの占い師”ではいたくないと思っています」
長老は静かにうなずいた。
「私は、祈りたい。私自身のために。私が私としてここにいることを、誇れるように」
少しだけ、唇が震えた。
けれど、目はまっすぐだった。
「そして……願わくば、この世界の誰かが進む道を、ほんの少しでも照らせたら。そんな祈りを、自分の手で形にしたいんです」
言いながら、自分で自分の心に気づいていくようだった。
それは、「選ばれる」ことから、「選ぶ」ことへの小さな一歩。
長老は目を細め、そっと言葉を返す。
「あなたの祈りは、もう十分に届いておるよ。あの疫病の夜、皆が見上げた光は……あんたが照らした道だった」
アリアは、思わず胸に手を当てた。
小さく、「ありがとう」と、心の中でつぶやく。
イリスが「ぽよん」と跳ねて、アリアの膝にちょこんと乗った。
まるで、「それでいいよ」と言うように。
モルンも近くに寄ってきて、大きな体でそっとアリアの背に影を落とした。
言葉がなくても、伝わる。
大丈夫。進んでいい。そう背中を押されるような気がした。
その時、誰かがアリアを呼ぶ声がした。
「アリアさん!」
振り向けば、少し遠くで、シュウが手を振っていた。
馬車の準備ができたらしい。
マコトとエリオット、そしてユリウスも揃っていた。
アリアは立ち上がる。
「行こう、イリス。モルンも」
光を抱えたまま、彼女は一歩を踏み出す。
この歩みが、誰かの道しるべになるように。
──導く者として。選ぶ者として。
──158話へつづく
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




