156話 再び歩き出すために - 村に残す灯
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──朝焼けが、ようやく静けさを取り戻した村を照らしはじめていた。
ウィスタ村に広がっていた疫病は、アリアたちの尽力により拡大を防がれ、今では新たな発症者も出ていない。
罹患者も峠を越え、あとは体力の回復を待つばかりとなっていた。
村の中央広場では、簡易的な診療所として使っていた建物の片付けが進んでいた。
「……これでようやく、一息つけそうだな」
マコトが額の汗をぬぐいながらつぶやく。
「皆の協力があったからだよ」
アリアはそっと答え、イリスが「ぽよん」と肩で弾む。
木陰のベンチでは、ケイが最後まで看ていた患者の様子を確認していた。
「この子も、もう大丈夫だ。熱も引いたし、食事もとれている。あとは寝ていれば、数日で元気になる」
アリアはそっと胸をなでおろした。
「父さん、ここに残るの?」
シュウがそばに来て、小声で尋ねる。
ケイは優しく頷いた。
「うん。あとは静養を見守るだけだが……最後の一人が元気になるまで、俺が責任をもって残るよ」
「……わかった。気をつけてね」
シュウの顔には、どこか誇らしげな色が浮かんでいた。
そのとき、馬の蹄の音が遠くから近づいてきた。
「ユリウス?」
アリアが振り向くと、馬に乗ったユリウスが軽く手をあげて降りてくる。
「三つの隣村、すべて回ってきた。幸いなことに、似た症状の者は出ていなかった」
「よかった……」
マコトも深く頷く。
「他の村には影響がなかった。これで、封じ込めは成功したと見ていいだろう」
「さすがね、ユリウス」
アリアの言葉に、ユリウスは照れたように視線をそらした。
「……いや、村の人たちが協力的だっただけだ」
そのやり取りのあと、アリアはふと、モルンに視線を送った。
「ねぇ、私がモルンに乗って見回りに行けば、もっと早く回れるかもって思ったんだけど……」
「ダメだよ」
即座に返ってきたのは、エリオットの真剣な声だった。
「村人たちが、空からいきなりドラゴンが来たら驚いて倒れるよ。最悪、弓で撃たれるかもしれないし」
アリアは笑いながら頷いた。
「……たしかに」
「だから、見回りはユリウスとマコトの二人で分担が最適」
エリオットの提案にマコトも頷く。
「了解。まだ少し距離のある村を俺が回っておくよ」
「ありがとう。頼りにしてる」
そう言って、アリアはみんなの顔をゆっくりと見渡した。
「……この村は、もう大丈夫。あとは、次の目的地へ向かおう」
旅の荷をまとめ、再び整え直す。
イリスが小さく光を揺らし、モルンが体を軽く伸ばして、準備を整える。
ルミナ商会からの馬車も手配され、エリオットが後方支援として付き添うことになった。
「シュウ、行ける?」
アリアが尋ねると、シュウはしっかりと頷いた。
「はい。体力も回復しましたし、今度はもっと動けると思います」
「うん。無理せず、でも頼りにしてるよ」
一行が村を出発する直前、ケイがアリアに近づいて言った。
「アリア……ありがとう。君たちが来なければ、この村は……」
「来られてよかったです。ケイさんがいたから、私たちも支えられました」
互いに短く笑い合い、手を握る。
最後に、モルンが軽く鼻を鳴らし、ケイに向けて翼を小さく広げた。
「……きっと、また会えるよ」
「その時は、シュウがもっと立派になってるだろうな」
そう言って笑うケイに、シュウが小さく頷いた。
──そして、アリアたちは再び歩き出した。
命の炎が消えかけた村に、希望の灯を残して。
彼らの旅は、まだ終わらない。
──157話へつづく
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




