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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第七章 過去と未来をつなぐ旅
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150話 イリスの使命 - 虹の記憶

小さな村のはずれ。

夜の風が、ゆっくりと森を撫でていた。


丘の上では、アリアが草を踏みしめながら空を仰いでいた。

濃い藍の空に、星がいくつも瞬いている。

その足元には、イリスがぽよん、と跳ねながら寄り添っていた。


「ねえ、イリス……」


アリアはふと、手を伸ばしてイリスをすくい上げた。


「もしかして、あなた……ずっと私のこと、見てたんじゃない?」


イリスは、ぴくりと反応した。

虹色の体が一瞬、淡く光る。

それから、そっとアリアの掌の中でふるえた。


「……やっぱり、そうなんだね」


ぽよん。


跳ねる動作が一度強くなったかと思うと、イリスの体の中から、まばゆい光があふれ出した。


その光はアリアの瞳に触れた瞬間──まるで水面に投げた小石のように、時の波紋を描きはじめた。


視界が揺れる。





星の回廊。 黄金の柱。 絹のようなローブ。


──そして、そこに立っていたのは、“カメリア”だった。

かつて、王の未来を読み、国を守ろうとした、若き宮廷占い師。


彼女のそばに、小さな光があった。

虹のように淡く、柔らかく──あのときも、確かにそこにいた。


アリアの胸の奥に、名もない記憶がざわめいた。

涙が一粒、頬をすべった。


「イリス……あなた、本当に……」


イリスは静かにまた跳ねた。

その跳ね方には、どこか意思のような強さがあった。


──私は、ずっと見ていた。

──あなたを、見届けていた。


言葉がなくとも、確かな共鳴がそこにあった。





そのとき。


後ろから、静かな気配が近づく。


「やっぱり……」


モルンだった。


その大きな体が、月の光に照らされてゆっくりと姿を現す。


アリアは驚いた。


モルンの背中は、いつの間にかアリアの胸元ほどの高さまで成長していた。

昔はしゃがまないと撫でられなかったのに、今では立ったまま背を撫でられる。


「モルン……いつの間にこんなに……」


モルンは静かに頭を垂れた。

その目には深い光が宿っていて、まるですべてを見通しているようだった。


「……あなたも、気づいてたのね」


くぅん。


モルンが低く鳴き、アリアのそばに身を寄せる。

その体をゆっくりとかがめると、アリアの腰がちょうど乗れる高さになった。


「……えっ、乗っても大丈夫?」


モルンは首を傾けてから、コトンと地面に顎を乗せるようにして合図をした。


そっと身を預けてみる。

ぐらつきはなく、しっかりと支えられた。


「……ありがとう」


アリアは、イリスを腕に抱いたまま、モルンの背中から星空を見上げる。





その視線の先には、かつて見たことのある星の配列が、静かにまたたいていた。


イリスの光が、夜気の中に淡く溶けていく。


──この子は、記憶を宿す存在。

──ことばではなく、共鳴で繋がる者。


「……使命なんだね。思い出させることが」


ぽよん、とイリスが跳ね、アリアの胸元に寄り添う。


モルンの背中に乗ったまま、アリアはそっと目を閉じた。


自分は、この“虹の記憶”に、何度も導かれてきた。

そして、これからも。


「ありがとう、イリス。あなたがいてくれて、本当によかった」


夜の空気がやさしく流れる。 どこか遠くで、静かに草の葉がそよいだ。





──151話へつづく





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