149話 遠縁との繋がり - 記憶を越えて
ルミナ商会⇒レオンが会長の大商会です。
ルミナ商会の支部は、村から半日ほど離れた小高い丘のふもとに建っていた。
道沿いには、旅人や商人たちの足跡がいくつも残されており、扉の前には鮮やかな花を咲かせた植木鉢が並んでいた。まるで、誰かが“帰り道”を飾るようにして。
アリアはふと、イリスの跳ねる音に振り返った。
「ぽよん」
虹色のスライムは、植木鉢の一つを興味深そうにつついていた。小さな花がゆらりと揺れ、その瞬間、ほのかな光がイリスの体からふわりと浮かんだ。
「イリス……?」
その光が花を包んだ刹那、まるで空気ごと柔らかくなったかのような感覚が訪れた。空気の粒子に、人々の微笑みや、手渡された言葉のぬくもりが混ざっているような……そんな温度。
「ここは、優しい時間が流れてる」
アリアがそうつぶやいたちょうどその時、支部の扉が開いた。
「あの……失礼ですが……」
現れたのは、アリアより少し年上に見える女性だった。栗色の髪を後ろで束ね、淡い青の上着をまとっている。だが、何よりもアリアが息を呑んだのは、その顔立ちだった。
──似ている。
瞳の形、頬の線、微笑んだときの口元。まるで、鏡の中の誰かを見ているような錯覚すら覚える。
「……お会いしたこと、ありましたっけ……?」
女性の声もどこか柔らかく、耳に心地よい。だが、アリアは首を横に振った。
「……いえ。初めてだと思います。でも……不思議と懐かしい気がして」
「私も、そうなんです。ずっと前に、夢の中で……誰かに手を引かれた記憶があって。あなたの目を見たとき、あのときの“誰か”と同じ気配がしたような」
女性の頬が少し赤らむ。
イリスがくるりと宙を舞い、その女性の肩に優しく乗った。
「ぽよん……」
「えっ……かわいい……。この子も、あなたの?」
「ええ。イリスって言います。……その子が、そうやって寄っていくの、珍しいんです」
アリアが微笑むと、女性も静かにうなずいた。
「私は、マリアといいます。この支部の受付をしながら、物資の調整もしています。……実は、昔、祖母が“うちには東の聖堂の血が混ざっている”って言ってたことがあって……それを、ふと思い出したんです。」
「東の……聖堂?」
アリアは目を見開いた。それは、かつて母方の祖先が関わったとされる、星読みと癒しの司祭団の名だった。
「……もしかしたら、私たち……血が、繋がっているのかもしれませんね」
「ええ。そうかもしれません」
アリアは、ふと指先に温かさが宿るのを感じた。かすかに、胸の奥で灯る小さな火。それは、誰かを思い出すような、けれどはっきりとは掴めない……そんな遠い灯。
自分と似た面影のあるマリアの姿に、どこか懐かしさを感じていた。
その時、イリスがふわりと跳ね、周囲の空気を揺らす。
アリアはふとイリスの動きに目をやると、イリスの光が部屋の温度や人々の心の動きに共鳴し、柔らかな光の粒となって、みんなの胸の奥の“繋がり”を優しく可視化していた。
アリアは感嘆の息を漏らす。
「イリスがみんなの心の温かさを感じ取っているみたい。」
マリアもそれに気づき、驚きながらも嬉しそうに微笑んだ。
「さすが、あなたのそばにいるだけありますね。」
その後、アリアはシュウに目を向けた。
「シュウ、千里鏡は受け取れましたか?」
シュウは頷きながら、ルミナ商会の担当者から受け取った小さな魔法の鏡を見せる。
「はい。これが僕の分です。父さんの分は既に配達済みだそうです」
アリアは安心した表情で頷く。
「そういえば、アイさんたちの旅芸人一座と最後に会ったのは、湖畔の町です。そこからもう数日経っているので、移動している可能性が高いです。」
地図を指差しながらアリアが言うと、シュウもそれに続く。
「旅芸人は移動が多いので、正確な場所は分かりません。でも、ルミナ商会には最近の目撃情報も伝えています。」
マリアは静かに頷いた。
「わかりました。それなら、私たちもできる限りの支援をしましょう。」
アリアは心の中で、確かな絆と安心感を感じた。
「ありがとうございます。関わってくれたすべての方に感謝して、大切に使います。」
イリスはぽよんと跳ねて光を揺らし、モルンも静かにその場に佇む。
時代も場所も越えて、紡がれる縁が、未来への希望となっていく。
――どうか、この絆が、誰かの明日を照らしますように。
──150話へつづく
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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
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