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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第七章 過去と未来をつなぐ旅
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148話 次世代への継承 - 若葉に光を託して

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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陽射しのやわらかな朝だった。露をまとった草がきらきらと光り、村の広場には今日も子どもたちの笑い声が満ちている。


アリアは小さな石台の上に腰を下ろし、子どもたちに手招きした。


「今日はね、星の話をしましょう」


興味津々の目がいっせいに向けられる。


「星って、空の?」


「読めるの? 言葉みたいに?」


そんな声に、アリアは小さく笑ってうなずいた。


「うん。星は昔から、人の願いや流れを映してきたの。……目に見える星だけじゃなくて、感じる星もあるのよ」


子どもたちは互いに顔を見合わせながら、夢中で話を聞いていた。


そばでイリスが「ぽよん」と小さく跳ねると、子どもたちが歓声を上げる。


「すごい! それ、占いの精霊?」


「ちがうよ、アリアさんの一番の仲間なんだって!」


イリスはふわりと浮かび上がり、空中できらめきを振りまく。

その光に、子どもたちは手を伸ばし、目を輝かせた。





「君たちが未来を知ろうとする気持ち。それが、光になるのよ」


アリアの言葉に、子どもたちはしんと頷いた。





その少し離れた場所、木陰の下ではシュウが小さな布包みを広げていた。 中には包帯や、干した薬草、研いだ小瓶が丁寧に並べられている。


「この薬草は傷の治りを早める作用があるんです」


シュウはそばに集まった少年たちに、落ち着いた口調で話す。


「父に習ったんです。山道や旅先で、急に怪我をしても使えるように」


「じゃあ、シュウ兄ちゃんは医者になるの?」


問いかけに、シュウは少し言葉を詰まらせた。


「……今は、そうやって学んでます。でも、これから先、どうしていくかは……まだ決めてません」


「え、でもすごいよ! お医者さんになったら困ってる人いっぱい助けられるじゃん!」


「……うん。だから、もっと学ばなきゃって思ってる」


シュウは子どもたちに薬草を渡し、使い方を丁寧に教えながら、少しだけ遠くを見ていた。


その視線の先には、アリアの姿があった。





広場の端では、マコトが軽く身体を動かしながら、子どもたちに護身術の基本を教えていた。


「姿勢と呼吸がまず基本だ。力任せじゃ駄目だ。重心を……そう、そこだ」


エリオットが後ろで腕を組みながら笑って見守っている。


「マコト師匠、なんか嬉しそうですね」


「うるさい。そっちも見てろ」




一方、ユリウスは黙って腰を落とし、見よう見まねで型を取っていた。


マコトは腕を組みながら、軽くうなずいた。


「ふむ、ユリウス……筋がいいな」


「……は?」


思わず素っ気ない声が漏れたユリウスが、片眉を上げてマコトを見た。


「師匠、それ、冗談ですよね? 一応、自分……元騎士団員なんですけど」


「そうだったな。すまん、忘れてた」


「……忘れてたって、師匠……」


エリオットが吹き出しかけて口を押さえる。アリアは肩を揺らして笑いながら、モルンと目を合わせた。


ぽよん、とイリスが跳ねて場の空気を和ませる。




その傍ら、モルンは子どもたちの輪の外で静かに座っていた。


そのときだった。


丘の上で、小さな悲鳴が上がった。


「わっ、転ぶっ──!」


斜面を駆けていた子どもが足を滑らせ、転がりそうになる。

その瞬間、モルンが風のように動いた。


地を蹴り、重たい体でふわりと子どもを庇うように覆いかぶさる。

鱗が土を打ち、草の中で金の眼が細められた。


「モルン!」


駆け寄るアリアの声に、子どもは驚いたようにモルンの背から身を起こした。


「だ、大丈夫……!ありがとう、モルン!」


子どもの小さな手が、そっとモルンの額に触れる。

その瞬間、モルンの体がわずかに震えた。


モルンの金の瞳が、どこか遠くを見るように細められる。


──また、誰かを守れた。


小さな手がモルンの背に触れるたび、彼の中に眠る何かが、静かに目を覚まし始めていた。




──重なっていたのは、過去。


火の海の中、逃げ遅れた幼子を庇ったあの夜。

カメリアの背にいた彼は、叫び声に振り向き、無我夢中で走っていた。


あのとき守れた命。

あのとき、守れなかった命。


「モルン……?」


アリアが手を伸ばすと、彼は静かに顔を伏せるようにして、その場にうずくまった。


イリスがそっと彼のそばに寄り添い、ふわりと宙を漂いながら虹色の光を揺らす。

まるで、「大丈夫だよ」と伝えるように。


ユリウスが後方からその様子を見つめていた。

口には出さないが、剣士として、何かを悟ったようなまなざしで。


──未来、という言葉が、ふとモルンの脳裏に浮かぶ。


それは彼にとって、希望ではなく、恐れに近いものだった。

過去と同じように、何かを失うのではないかという恐怖。


だが、アリアの手が再び触れたとき、モルンの目に映ったのは──揺るがぬ光。



「私ね、今日あらためて思ったの。私の占いって、未来を見せるためじゃなくて、誰かの心に光を灯すためのものなんだって」


アリアは微笑んだ。


「だから……一緒にいて。モルン。あなたが隣にいてくれると、私はちゃんと伝えられる気がするから」


モルンは静かに目を細め、小さくうなずいた。





そのとき──空に、細い流れ星が走った。


誰も言葉にせず、ただ黙ってそれを見上げた。


──学び、託すこと。

光を誰かに渡すこと。


それは、今この場にいる一人ひとりが、確かに未来に関わっているという証だった。




「ほら、あれも“祈り星”だよ」


アリアの声に、子どもたちが一斉に空を見上げる。


「お願いごと、した!」


「ぼくはね、大切な人がずっと笑っていられますように、って!」


「わたしは……お母さんに、はやく元気になってほしいな」


星は、何も言わないけれど。

その光が、願いを預かってくれたような気がした。


アリアはそっと、胸に手を当てた。


(私も……)


今、ここにいる全ての命の先に──やさしい明日がありますように、と。





夕暮れ時、アリアはモルンの横に座り、そっと問いかけた。


「ねぇ……『未来』って言葉、嫌い?」


モルンは反応しなかったが、しばらくして、ほんの少しだけまぶたを伏せた。


「やっぱり……少しだけ、怖いのかもしれないね。私もそうだったよ」


イリスがアリアの膝に跳ね乗り、光をふわりと揺らす。


アリアは小さく笑い、モルンの背を撫でた。


「でもね、今の子たちを見てたら、怖いだけじゃなくなる。……ちゃんと託せる、って思えるようになるんだよ」


モルンはその言葉に、ただ静かに目を閉じて応えた。




──夜風が、未来の匂いを連れてきていた。




ーーー149話へつづく。





※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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