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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第七章 過去と未来をつなぐ旅
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146話 日々の民の声 - 小さな祈りに耳を澄ませて

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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──空気の匂いが変わった。


朝露が乾き始めた村の道を、アリアたちはゆっくりと歩いていた。

家々の屋根に差し込む陽光は柔らかく、どこか優しげで、日々の営みに寄り添っているようだった。


「……この村、静かだね」


そうつぶやいたのはエリオットだった。


「小さいけれど、ちゃんと息づいてる。人々の暮らしが、ここにある」


アリアが応える。


その声にイリスが「ぽよん」と反応する。

虹色の身体が小さく揺れた。


「イリスも、なにか感じてる?」


彼女の問いに応えるように、イリスはふわりと空に舞い、村の中央にある広場へと向かっていった。




その先には、井戸の周りに集まってざわめく村人たちの姿があった。


「……水が濁ってるの。今朝から急に」


年配の女性が言う。


アリアがのぞき込むと、確かに水面がかすかに茶色がかっていた。


「原因は……?」


「上流からの水が少なくてね。井戸の底に沈殿物が溜まってるのか、それとも……」


イリスがそっと井戸の縁に跳ね、光を宿した身体を静かに水面へとかざした。


──きらきらと光が広がり、やがてイリスの虹色が淡い緑に変わっていく。


「……共鳴してる」 アリアが呟いた。


その直後、イリスはぴょんと跳ね、井戸の背後の木々の方を向いて揺れた。


「上流だね」


アリアは歩き出す。





しばらく山道を登ると、清水の流れが細くなった小川にたどり着く。

一本の古木が、傾きかけながら根をむき出しにしており、水をせき止めていた。


「……これが原因か」


マコトとユリウスが協力してその木の根を切り、土を掘り直す。


水が再び流れ始め、清らかな音が耳に届いた。


イリスがくるりと宙を舞い、「ぽよん」とひとつ喜びを跳ねた。


「ありがとう、イリス」


アリアがそう呟くと、イリスは少し照れたように揺れた。





その帰り道、村の小さな家の前で若い母親が困った顔をして立っていた。


「どうしたのですか?」


とアリア。


「息子が高熱を出して……ずっとぐったりしてるんです」


アリアは子どもの様子を確かめる。

呼吸は浅く、顔が赤い。

だが、何か不自然な感じがした。


「これは……ただの風邪じゃない」


アリアが目を閉じて、星の光に問いかけるように手を合わせた。


イリスがそっとその横に寄り添い、虹色の光をアリアの掌へ導く。


「……土に含まれた草の毒。おそらく口に入れたか、触ったか」


その言葉を聞いて、シュウが静かに前に出る。


「任せてください。薬を調合します」


シュウは懐から革の薬袋を取り出し、何種類かの乾いた薬草を手際よく選ぶ。


「……師匠、湯を沸かしてください」


「よし、ユリウス、薪を頼む」


シュウは薬草を小さな器で砕きながら、何度か匂いを嗅ぎ、量を微調整する。


「これは解毒と、熱を下げる組み合わせです」


その動きには迷いがなく、静かな確信が宿っていた。


薬ができあがり、母親の手に渡される。

子どもがそれを口にしたとき、イリスがぴたりと寄り添い、光を淡く揺らした。


「……効いてくれるといいね」


アリアの声に、シュウが静かに頷いた。


「大丈夫。必要なものは、すべて入れました」


その確かな言葉に、母親が深々と頭を下げた。





夕暮れが近づき、村の広場では子どもたちの笑い声が戻ってきた。


アリアは広場の片隅に腰を下ろし、モルンの横に座る。


「今日だけでも、いろんなことがあったね」


モルンは答えない。

ただ、どこか遠くを見るようなまなざしをしていた。


「……モルン?」


金の瞳がゆっくりとアリアを振り返り、一瞬揺れる。 それは、迷いや葛藤の色に近かった。


「何か、考えてるの?」


モルンは「くぅん」と小さく鳴いたが、それ以上は語らない。


アリアは静かにその隣に手を伸ばし、そっと撫でた。


「言葉にならないものって、たしかにあるね。けど……あなたが黙っているときほど、大切な何かを考えてるって、最近わかってきたよ」


イリスがそっと寄ってきて、「ぽよん」と跳ねる。 その光は、以前より少しだけ、濃くなっていた。


アリアはそれに気づき、そっとつぶやく。


「イリス……最近、感情にすごく敏感になってるよね。共鳴の力も、深くなってる」


イリスは小さく跳ねて応えた。





そのやりとりを、少し離れた場所からシュウが見ていた。


「……なんだか、不思議ですね」


アリアが顔を向けると、シュウは穏やかに続けた。


「ただ病を治すだけじゃない。言葉にできないものが、確かにあって、それを……精霊たちが受け取ってくれる」


アリアは笑った。


「そうですね。目に見えないけど、大事なもの」





その夕暮れ、広場に灯るいくつかの火が、村の夜を優しく照らしていた。





アリアは心の中で、今日出会ったひとりひとりの祈りに耳を澄ませていた。


──それは小さくても、確かに届く祈り。



積み重なる声のひとつひとつが、アリアの歩む道を形作っていくのだった。





──147話へつづく



※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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