表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第七章 過去と未来をつなぐ旅
147/338

142話 祈りを受け取る者 - 共鳴する光


朝露に濡れた道を歩いていると、ふいに風がやんだ。


アリアは足を止め、前を見つめる。


小高い丘の向こうに、ぽつりぽつりと家が並ぶ村があった。


「……あそこが、フィーナの村」


 マコトが低くつぶやく。


 イリスはぽよんと跳ねて、アリアの肩におさまり、モルンは彼女の足元に寄り添いながら、じっと村の方角をにらんでいた。


普段は湯たんぽのように温かな身体が、いまは少しだけ冷たい。




 入り口に立っていた老人が、アリアたちを見て近づいてくる。

しわ深い顔に、どこか影が差していた。


「旅の方か。こんな村に何の用じゃ」


 アリアが一歩前へ出て、微笑む。


「こんにちは。少しだけ、お話をさせてください」


 老人はしばし黙っていたが、やがてぽつりと漏らした。


「……この村は、もう、祈らんのじゃ」


 その言葉に、イリスが微かに震えた。

虹色の身体が淡く光る。


 村の空気は重く、沈黙がまとわりついていた。




アリアたちは村の広場へと案内された。

そこには数人の村人たちが集まっていたが、誰も声を発しない。


その中に、一人だけこちらをじっと見つめる少女がいた。


名をルアという。年の頃は十七、十八か。

だが、彼女は口をきかない。




イリスがぽよんと跳ねて、ルアの前に行く。


ルアの瞳がわずかに揺れた。


イリスは、そっと光を灯す。

淡い虹色が広がり、まるで花のように彼女の足元に咲いた。




そのとき、モルンが「くうん」と低く鳴いた。

尾を巻き、アリアの足元に戻ると、じっと周囲の気配を探るように鼻をひくつかせている。


「モルン……?」


 アリアが囁くと、彼は小さく頭を横に振った。


 まだこの村には、目に見えない何かがある。




 アリアは小さく深呼吸し、ルアの前に膝をついた。


「……占わせてもらってもいい?」


 ルアは何も言わず、ただアリアを見つめていた。


 それは拒絶ではなかった。




 イリスがぽよんと跳ねて、アリアの手にそっと触れる。


 共鳴が走った。


 静かに、アリアは目を閉じる。

 ルアの心に、触れるように。




 ――暗闇。

 光のない場所で、何かを叫んでいる。

 けれど、声は出ない。

 何も届かない。


 沈黙の中で、ただひとつ、心の奥底に灯る小さな火。

 それは、祈り。

 言葉にならない願い。

 消えかけた希望。




 アリアは目を開けた。

 ルアの目元に、涙が流れている。


 それを見たイリスが、光を放つ。

 ふわり、と。



 ルアの胸元から、虹色の光がふくらみ、花が咲いた。


 音もなく、それは空気に溶けてゆく。


 人知れず消えかけた想いが、いま形となって咲いたのだ。




 アリアはそっとルアの手を取り、にっこりと微笑んだ。


「大丈夫。あなたの祈り、ちゃんと届いてるよ」


 ルアは驚いたように目を見開き、そしてこくんと小さくうなずいた。




 その光景を、モルンは見つめていた。


 目を細めるその表情に、かすかな安堵と、そして……疑念。


 彼には見えている。

 この村の奥底に、まだ触れてはならない“何か”が眠っていることを。




 モルンは再び、アリアのすぐ傍に身を寄せた。


 彼女を守るために。


 まるで、それが自分の本来の役目であるかのように。




(――ここには、まだ終わっていない祈りがある)


 ぽよん、と跳ねたイリスの光が、再び小さな花を揺らした。





ーーー143話へつづく



※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ