124話 繰り返す者 - 導きの問い
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古びた祠の中、静寂がアリアを包み込む。
手を伸ばせば届きそうな、時の流れが止まったような空間。
外からは、柔らかな風が葉を揺らす音だけが聞こえてきた。
イリスが足元でぽよんと跳ねる音に、アリアはふと現実へ引き戻される。
その小さな存在が、彼女にとっての唯一の心の拠り所なのだと改めて感じた。
だが、彼女の心はすぐに再び夢の彼方へと誘われていった。
――霧のように淡く、過去の世界へ。
そこは重々しい石造りの宮廷。
幾重にも重なる緊張と期待の空気が満ちている。
若き宮廷占い師――アリアの前前世の姿。
まっすぐな瞳の奥に、微かな恐れと責任感が光っていた。
「お願いです、どうか私の未来を教えてください」
声の主は、宰相の息子であり婚約者でもあった男。
彼女はその望みに応え、星々の巡りを読み解く。
しかし彼女が導き出した答えは、残酷な真実だった。
【謀反を主導する】
だが、彼女は言えなかった。
恐怖が心を締めつけ、言葉を飲み込む。
もし伝えれば、彼女自身が疑われ、排除されるかもしれない。
愛する人を傷つけることになるかもしれない。
「もし……私が伝えていたら」
無辜の民が、犠牲になることはなかった。
その想いが彼女を蝕み、やがて占いの術すら恐ろしくなった。
夢の中のアリアは、その胸の痛みをじっと見つめていた。
彼女の心は痛みを共鳴させ、失ったものの大きさに圧倒されていた。
――時が流れ、現代の喧騒。
アリアは編集社のデスクに座り、夜の街を見つめる。
週末には小さな占いブースで人々の悩みを聞き、そっと未来の灯火を渡していた。
「未来を予言することは、私の望みではなかった」
静かな声で、彼女は自分自身に言い聞かせる。
「人は未来に怯えるのではなく、今を生き抜く力を欲している」
ひとりひとりの声に耳を傾けながら、彼女は気づいていた。
占いとは「当てる」ことではなく、「灯を渡す」こと。
暗闇の中で手を差し伸べるように。
同時に、自分自身もまた、その灯を必要としていた。
「誰かを照らす光が、自分をも照らしていたんだ」
夢の中の女性は微笑み、アリアの心を優しく包み込んだ。
――目覚めると、手のひらには古びた護符が握られていた。
そこに記された言葉が、静かにアリアの胸に響く。
――繰り返すことには理由がある。問いを持ち続けよ。
問いは、胸の奥で小さな火を灯した。
「なぜ、私は……占い師として、繰り返し生きているのだろう」
その問いは重くもあり、しかしどこか救いでもあった。
繰り返すことに意味があるのなら、答えはまだ遠くても、それを探す価値がある。
イリスがそっと護符に寄り添い、ぽよんと跳ねてその光を受け止める。
瞳がきらきらと輝き、古代の記憶に呼応するようだった。
「イリス、あなたも感じているのね。これはただの紙切れじゃない。私たちに託された祈り」
アリアは護符を胸に抱きしめ、ゆっくりと息を吐いた。
「これからも、問い続けていこう。答えが見えなくても、歩みを止めないで」
遠くの空に、ひとつの星が流れた。
それはまるで、彼女の胸に灯った小さな希望のように光っていた。
「私の道はまだ続く。誰かのためでなく、私自身のために」
イリスがふわりと跳ね、アリアの肩に軽く触れる。
その温もりが、迷いの中の確かな光となった。
未来はまだ見えない。だが、歩み続ける限り、祈りは繋がっていくのだ。
ーーー125話へ続く
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




