120話 旅路の決意 - 過去を読み、未来を繋ぐ者
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──夜明け前。空がまだ群青色をしている時間。
小高い丘の上で、アリアはひとり空を仰いでいた。
白んでいく東の空。その向こうには、まだ見ぬ「東方の地」がある。
(……キク様が消えた場所。その先に、何があるんだろう)
肩のあたりで「ぽよん」と音がして、イリスが跳ねた。静かに寄り添うように、アリアの足元へと移動する。
「うん。私も、不安じゃないって言ったら嘘になるけど……でも、進まなきゃって思うんだ」
ぽよん。
返事のように跳ねたイリスの身体が、朝の光をわずかに反射して虹色に光る。その様子にアリアは小さく笑った。
「なんか、イリスって光のかけらみたいだね。小さいけど、温かくて、消えない」
「消えないのは、君の灯りだろう」
その声に振り返ると、マコトが立っていた。
まだ朝靄が残るなか、彼の影は静かに伸びていた。
「君は、いつも誰かのために灯りをともしてきた。自分の足元がぐらついていても、誰かの心を照らそうとしてきた。だから……俺は、君がどこへ向かっても、大丈夫だと思ってる」
アリアは思わずまばたきをした。
「……そんなふうに思ってくれてたんですね」
マコトは少し目を細めてから、背を向けて歩き出した。
「思ってるよ。けど、これは道だ。歩くのは君自身だ」
その背中を見送るアリアのもとへ、ユリウスがやってきた。風に揺れる髪を払いながら、彼はふっと笑う。
「今日の君は、なんだか少し“占い師の顔”をしているね」
「……え?」
「今までの君は“祈る人”だった。でも今日は、何かを見つめてる。過去を受け入れて、未来を選び取ろうとしてるような──そんな眼をしてる」
ユリウスの言葉に、アリアの胸がかすかに震えた。
「……私ね、どうして占い師になったのか、ずっとわからなかったんです。誰かに頼まれたわけでもないのに、なぜか“見たい”と思ってしまって……未来を。でも、それってきっと、過去を見てきたからなんだって、最近ようやく気づいたんです」
「過去を、見てきた?」
「うん。自分の、だけじゃなくて。祖母の記憶、先祖たちの記憶、失われた誰かの想い。そういうものを知ってしまったから、もう黙っていられない気がして。……今度こそ、誰かの未来を良くしたいって、思うようになったんです」
ユリウスは少しだけ目を見開いて、やがて真っ直ぐにうなずいた。
「……いいな。その選択は、君にしかできない」
そのとき、丘の下から駆けてくる足音が聞こえた。
「アリアー! パン屋さん、朝から開いてたよ! クロワッサン買ってきた!」
エリオットだった。両手いっぱいに紙袋を抱えて、息を切らして笑っている。
「しかも、オマケでジャムもつけてくれた! 今日の出発祝いだって」
アリアは吹き出した。
「ふふ……ありがとう。朝から元気だね、エリオット」
「だって、旅の出発でしょ? なんか、こう……わくわくするじゃない」
「うん。私も、そんな気持ちになってきた」
みんなが揃い、朝の陽が地面に差しはじめた。
アリアは空を見上げ、そっと胸に手を当てる。
(私は、“占い師”になった。 過去を見て、未来を恐れるためじゃない。 繋ぐため──その橋になるために)
「行こう、みんな」
アリアの声に、イリスが「ぽよん!」と跳ねる。 エリオットが笑い、ユリウスが頷き、マコトが歩を進めた。
──それぞれの足音が、少しずつ重なって、ひとつの道を奏でていく。
旅は続く。 でも、今日の一歩は特別だ。
彼女が“自分の言葉”で未来を選び、過去に手を伸ばした日だから。
ーーー121話へ続く
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




