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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第七章 過去と未来をつなぐ旅
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118話 サクラの記憶、そして血の記憶 - 白き祈りに宿るもの

*本文の後ろに簡単な系譜の説明を入れています。(レン、ラン、ケイ、アイ、シュウ、キキについて)




──静かな光に包まれた聖堂の中。


アリアのまぶたの裏に、柔らかな白が差し込んだ。

光に導かれるように、彼女の意識は、遠い記憶へと沈んでいく。




少女──サクラは、ひとり石畳に膝をつき、静かに祈っていた。

白き衣は風に揺れ、彼女の背には、声なき光が射していた。


その姿は、まるで春告げの白百合。

そっと差し出された祈りが、誰かの傷を癒すように、あたたかく、静かだった。


「……姉さまの祈りは、まるで春の風みたいだね」


弟のレンが呟く。少年の眼差しには、幼き日の敬愛があふれていた。


「私は癒せる力なんて持ってないよ、姉さまみたいには……」


けれど、妹のランはそっと微笑む。


「それでも、祈るんだよ。私たちの祈りが誰かを包むなら、それだけでいいって──姉さまが教えてくれたもの」


三人に宿る癒しの力は、同じではなかった。

だが、ちいさな祈りが誰かを温めることを、彼らは知っていた。


祈ることは、信じること。

癒せると信じて祈るその手が、誰かの涙をすくうのだと。




だが、穏やかな日々は、ある日突然に終わりを告げる。


──王宮から届いた、召命の書。


「あなたの祈りは、この国の民にとって、奇跡です」


そう告げたのは、アルトリウム王国の若き王──

いや、かつて名も告げぬまま、ただ一人の青年としてサクラを見つめていた、あの王子だった。


──あの眼差しは、王としてではなく、人としてのものだった。


「共に歩んではくれませんか」


震える声に宿っていたのは、決意と──ひとつまみの迷い。


けれどサクラは、ただ静かに微笑んだ。


「私は、祈ることしかできません。それでも、誰かの心が軽くなるのなら──それが、私の歩む道です」


告げられぬまま、彼女は家族のもとを去った。

政治のためでも、栄誉のためでもなく。

癒しを、祈りを、王国へ届けるために。




そして、旅路のなかで宿った命。


「……王子には伝えません。あの方には、あの方の運命がある」


選んだのは、ただ一人で娘を産み育てるという道。

伝えないという強さは、愛ゆえの祈りだった。




弟と妹に、サクラはそっと告げる。


「レン、ラン……どうか、幸せでいて」


それは、祈る者としての別れ──

そして母となる者としての始まりだった。





時は流れ、レンのもとに息子・桂樹(ケイジュ、ランのもとには娘・アイリスが生まれた。

ふたりにはわずかに“癒しの力”が宿っていたが、その血がもたらしたのは安息ではなく、脅威だった。


“聖女サクラの血”を狙う者が、静かに動きはじめていた。


ふたりは生まれの記録を絶たれ、名を伏せ、教会の養護施設へ預けられた。

自身が何者なのかも知らぬまま、大人になっていく。


けれど、彼らの胸の奥には、決して消えないものがあった。


──白く柔らかな光のような、名もなき記憶。


それが、どこから届いたのか。

その答えを知る日は、まだ訪れていなかった。




──アリアは、深く息を吐いて目を開けた。


「……夢じゃ、ない。これは……祈りの記憶」


胸の奥が、確かに覚えていた。

若き日のサクラが、ただ人の心の痛みに寄り添い、祈り、愛したことを。


その愛が伝えられることなく、娘に、そして孫に、静かに受け継がれていたことを。


(おばあちゃん……あなたは、“特別”なんかじゃない。でも、祈ることを、諦めなかった)


そっと吹いた風が、アリアの頬を撫でた。

そのぬくもりは、まるで「わかってくれて、ありがとう」と囁くようだった。




ある夜、星のにじむ空の下──小さな教会の前。

月明かりの下で、ふたりの若者が立ち尽くしていた。


「なあ、アイ……最近、夢を見るんだ」


「夢……?」


「白い服の女の人が出てくる。すごく綺麗で、静かに笑ってて……でも、どこか寂しそうなんだ」


アイは目を見開いた。


「……私も。……同じ夢、見てる」


ふたりはまだ、自分たちが何者なのかを知らない。

けれどその“記憶”は、確かに同じ場所から届いていた。


それは、祈る者の系譜。


やがてケイとアイは、親となり、祈りを宿す子らをこの世に送り出す。





──そして時は巡り、次の世代へ。


シュウは、ある晩、不思議な夢で目を覚ました。

うっすらと、白い光。名前も知らない誰かの声。そして、心を撫でるような祈りの気配。


「……なんだ、これ……」


その頃、キキもまた、眠れぬ夜を過ごしていた。

彼女の夢の中には、光の輪郭のようなものが現れ、手を差し伸べてくる──でも、誰かはわからない。


胸の奥がざわめく。不安とも、安らぎともつかぬ感覚。


(……私、何を思い出そうとしてるの?)


ふたりはまだ、互いのことを知らない。

けれど、この夢が導く先で──彼らの祈りは、ひとつに重なっていく。


それは、血の記憶ではなく、“魂の祈り”が呼び合う物語のはじまりだった。





──119話へ続く。




レン→本名:蓮慈(レンジ

聖女サクラの弟。僅かながら癒しの力を持つ。

各地を巡り民を癒す神父だった。(故人)


ケイ→本名:桂樹(ケイジュ

聖女サクラの弟である蓮慈(レンジ/レンの一人息子。

命を守るため出自を伏せられ教会の養護施設で育つ。アイとは同じ教会の養護施設出身。


シュウ→本名:柊真(シュウマ

レンジの孫。桂樹(ケイジュのひとり息子。


ラン→本名:蘭子(ランコ

聖女サクラの妹。

僅かながら浄化の力を持つ。

教会のシスターであり、看護班として各地へ奉仕活動に出ていた。(故人)


アイ→本名:アイリス。聖女サクラの妹である蘭子(ランコ/ランの一人娘。

命を守るため出自を伏せられ教会の養護施設で育つ。ケイとは同じ教会の養護施設出身。


キキ→本名:桔梗(キキョウ

蘭子(ランコ/ランの孫。アイリスのひとり娘。





※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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