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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第七章 過去と未来をつなぐ旅
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116話 騎士の想いと誓い - 笑顔を守る剣

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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夕暮れの空が、森の梢を茜色に染めていた。焚き火の炎がゆらりと揺れて、薪がぱちんと小さな音を立てる。


アリアはそのそばに腰を下ろし、じっと火を見つめていた。イリスが「ぽよん」と丸くなって寄り添う。小さなその身体から、温もりが静かに伝わってくる。


──私は、どうしてこんなに笑っていられるんだろう。


そんな問いが心をよぎった瞬間だった。


「……アリア」


優しく、しかし芯のある声が森の静寂を破る。


ユリウスが木々の影から現れ、アリアの向かいに腰を下ろした。焚き火の灯りが彼の金髪をふわりと照らす。


「さっき、マコトに木刀で叩かれかけたよ。『考えごとしながら薪を割るな』ってね」


アリアはふっと笑った。その笑みが、焚き火の光に柔らかく映る。


「……それは、ユリウスが悪いと思う」


「やっぱり、そうか」


互いに微笑み合う。風がふと吹き抜け、木々の葉を揺らした。


「最近のおまえ……よく笑うようになったな」


その言葉に、アリアは少し目を伏せた。


「……そう見えてるなら、きっと……そうなんだと思う」


イリスが「ぽよん」と跳ねて、アリアの手にそっと触れる。彼女は微笑みながらその感触に手を添えた。


「怖さや痛みは、まだちゃんと残ってる。でも、こうして皆がそばにいてくれるから……笑えるのかもしれない」


「それでいい」


ユリウスの声は、静かに、確かに響いた。


「すべてを忘れる必要なんてない。笑おうとする気持ちがあるなら、それだけで十分だ」


火の音が、ぱちりと鳴る。


ユリウスは腰の剣に触れながら、ゆっくりと口を開いた。


「……俺は、長い間、自分が剣を抜く理由を見つけられなかった。王族の責務でも、誰かの期待でもなく、ただ『自分の意志で』振るう理由がなかったんだ」


アリアは目を上げ、ユリウスを見つめた。その瞳に、彼の言葉を受け止める覚悟が宿っていた。


「今は……見つけたの?」


「見つけたよ」


ユリウスは真っ直ぐにアリアを見た。その眼差しは、優しさと決意に満ちていた。


「アリア。おまえが選んだ道を、俺は守る。戦いの中でも、迷いの中でも、その歩みを支える。俺の剣は、そのためにある」


アリアは目を細めて、焚き火の炎の揺らめきに目を落とした。


「それって……恋の気持ち?」


その問いに、ユリウスはわずかに微笑んだ。


「違う」


その言葉は、はっきりとしていた。


「おまえは、俺にとって特別な存在だ。だけどそれが恋か、兄のような情か、正直なところ……自分でもまだ、はっきりとはわからない」


彼は少し目を細め、過去に目を向けるように言葉を紡ぐ。


「子どものころから、おまえが可愛くてしかたなかった。怨念に囚われたとき、俺を救ってくれたのも……おまえだった。そのとき、心から思った。『アリアは俺が守らなきゃ』って」


「恋なのか、家族なのか……そんな分類なんて、どうでもいい。ただ、俺はおまえの笑顔を守りたい。それが、俺の意志だ」


アリアはそっと口元を押さえた。胸の奥から、温かい何かが込み上げてくる。


「……ありがとう。あなたが、そばにいてくれるってだけで、すごく心強い。あなたは、私のお兄ちゃんみたいな存在。だから……その言葉、すごく嬉しい」


ユリウスは、安堵したように小さく笑った。


「それなら、俺も迷わずにいられる」


イリスが「びよん」と跳ねて、ふたりの間に小さく弾む。その動きにアリアが笑みを返すと、イリスは満足げに彼女の腕にすり寄った。


「……私はまだ、これからも迷うと思う。何が正しいか、自信を持てないこともある。でも……あなたがいてくれて、イリスがそばにいて、マコトやエリオットも一緒にいてくれる。そう思えるから……私は歩ける」


「それでいい」


ユリウスは頷き、まっすぐに告げた。


「おまえが歩く限り、俺はその背を守る。それが俺の剣の誓いだ」


──夜が深まっていく。森の中に広がる焚き火の灯りが、静かにふたりの影を照らしていた。


風が木々を撫で、未来の匂いを運んでくる。

それは、ひとりの騎士の誓いと、少女の決意を包み込む優しい風だった。


そして旅は続く。

選び取った絆と、信じる心を胸に抱きながら──。




ーーー117話へ続く



※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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