115話 進むべき道を - 記憶とともに歩む
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──この旅の先に、キクの記憶と、聖女制度の秘密があるかもしれない。
朝靄の残る森の中、アリアはゆっくりと歩き出した。背後には、苔むした石碑が静かに佇んでいる。
石に触れたとき、キクの祈りが胸に流れ込んできた。
「いつか、私たちを本当に理解してくれる人が来ますように――」
その言葉が、いまも耳の奥に残っていた。
足元で、ぽよん、と柔らかな音が弾ける。アリアが視線を落とすと、虹色のスライムが小さく跳ねていた。
「……イリス、朝から元気だね」
イリスは、ぽよんともう一度跳ねると、アリアの足元にぴたりと寄り添った。
その温もりに、自然と頬がゆるむ。
「不安もあるけど、行こうって決めたからには、ちゃんと……自分で選ばなきゃね」
ふと、背後に重みのある足音が近づいてくるのを感じた。
振り向くと、マコトがそこに立っていた。無言のまま、まっすぐにアリアを見つめている。
その視線は問いかけのようであり、確認でもあった。
「……やっぱり、キク様が最後に目指した“東の地”に行きたいの」
アリアはまっすぐ答えた。
「そこに、何か大切なものがある気がする。聖女の本質……制度の始まり。キク様がそこまでして向かおうとした理由が、どうしても知りたいの」
マコトは一度だけ、静かに頷いた。
「……そうか」
それだけだった。けれど、アリアはわかっていた。マコトの言葉が少ないのは、信頼の証だと。
言葉ではなく、その沈黙に宿る覚悟を。
やがて、少し軽やかな足取りの気配が、近づいてくる。
「まったく……君は、一度決めたら止まらないんだから」
現れたのはエリオットだった。口調は呆れたようでいて、瞳の奥には穏やかな光が宿っていた。
「でも、無茶だけはしないでくれ。僕たち、いや、少なくとも僕は――君を守るつもりでいるから」
「……ありがとう、エリオット」
アリアはその言葉に、小さく肩の力を抜いた。
「でも、守ってもらうだけじゃなくて、私も、ちゃんと前を見て進みたい。みんなと一緒に」
「ふっ、君はいつもそうだな。頼られたくないって顔をして、でも実は誰よりも人を想ってる」
エリオットはそう言いながら、少しだけ照れたように目をそらした。
「おや……エリオットが先に格好つけるとは、珍しいね」
柔らかな声が加わる。アリアが振り返ると、そこにはユリウスの姿があった。
朝の光を背に受けて立つその姿は、どこか懐かしさと威厳をあわせ持っていた。
「アリア。君が望むなら、どこへでもついていく。それが僕の昔からの役目だと思っているから」
「……ユリウス。ありがとう」
アリアはその名をそっと呼び、微笑んだ。
「あなたがそばにいてくれると、不思議と落ち着くの。子どもの頃みたいに」
「昔は君、僕の後ばかり追いかけてたね。あの頃が懐かしいよ」
「うん。でも今は……私が前を歩くこともあるかも」
「それはそれで、心強い」
ユリウスが笑みを深める。どこか兄のような眼差しが、アリアの不安をそっと包む。
そのとき、イリスがぽよん、と跳ねた。アリアの膝を軽くつつく。
「……あ、ごめんね。独り言ばかりになってたね」
イリスは何度も小さく跳ねてから、アリアの肩にぴとりと身を寄せる。
そのやわらかな感触が、アリアの胸をじんわり温かく満たした。
「大丈夫。あなたがいてくれるだけで、私はちゃんと前に進めるよ」
風が、森の隙間をぬって吹き抜けた。
マコトがふと、空を見上げたまま、ぽつりとつぶやく。
「……恐れがあるから、人は選ぶ。
選んだ先に、覚悟が宿る」
その言葉に、アリアは静かに目を閉じた。
いま、自分の胸にあるのは、恐れではない。
選んだ道を進もうとする意志。
その中にある、ほんの少しの勇気。
「……うん。覚悟する。自分で選ぶ、この先の道を」
キクが、サクラが、セリシアが、それぞれに託した想い。
それを確かめるために。
それを受け取るために。
「みんな……行こう」
アリアは振り返り、仲間たちを見渡した。
そこには、信じ合える瞳が並んでいた。
自分ひとりではなく、共に歩く人たちがいる。
旅は、まだ続く。
記憶と祈りを胸に抱きながら。
──その先に、真実があると信じて。
ーーー116話へ続く
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




