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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第七章 過去と未来をつなぐ旅
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107話 マコトの一太刀 - 静寂を斬るもの

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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アルトリウムの城門が遠ざかっていく。

小高い丘から王都を振り返ると、白い城壁が空に溶けそうなほど静かだった。


「サクラ様のこと、どうかお願いします」


アリアはアメリア王妃に向き直り、胸の前でそっと両手を合わせた。肩口にちょこんと乗ったイリスが、小さく「ぴょこん」と身を揺らす。王妃は微笑みながらうなずく。


「もちろん。何かあれば、千里鏡で知らせますね」


互いに持つ小さな鏡が、言葉を超えて通じる絆を感じさせた。


「必ず、戻ってきます。もっと強くなって」


その背で、イリスが「ぽよん」と跳ねる。鮮やかな虹色の体を揺らしながら、まるでその言葉にうなずいているかのように。


「じゃあ、行ってきます」


アリアの呼びかけに応じ、マコト、エリオット、ユリウスの三人が静かにうなずいた。


一行は、王都アルトリウムをあとにした。




「ここが……地図にあった小さな村?」


ユリウスが呟いた。

手にした地図をくるりと回して首をかしげる。


「合ってる、と思うんだけど……」


「地図を上下逆に見てたら、意味ないじゃん」


エリオットが肩越しに冷たく言うと、

ユリウスは


「いや、ちゃんと見てたし」


と小声で言い返す。


目の前には、山間に寄り添うように広がる数十軒ほどの集落。煙が上がる家もあれば、瓦が崩れたままの小屋もある。


「誰か、いる?」


アリアが辺りを見回したそのとき——。


「た、助けてくれぇえええ!」


悲鳴とともに、崩れかけた納屋の奥から男が飛び出してきた。後ろから、唸り声とともに黒い影が数体、地を這うように迫ってくる。


「魔物!」


エリオットが杖を構えた。


「イリス、お願いっ!」


アリアが叫び、イリスが魔法陣を展開しようとする——が、それよりも早く、ひときわ静かな影が前へ出た。


マコトだった。


誰よりも速く、そして音もなく駆ける。袴のすそが風に揺れた瞬間、彼の手にあったのは、一振りの刃。


「……っ!」


アリアが息を呑むよりも早く、その刀が振り下ろされた。


音は、しなかった。ただ、風が抜けた。まるで何も起こらなかったかのように。


だが次の瞬間、襲いかかっていた魔物たちの身体が——ふたつ、三つと静かに崩れ落ちた。


「……一撃……?」


村人の男が目を見開いた。彼を襲っていた魔物たちは、全て絶命していた。


「大丈夫ですか?」


ユリウスがすぐに駆け寄り、男の身体に外傷がないかを手早く調べる。


「お、おお……命拾いした……。あんたたち、一体……」


「通りすがりの、旅の者です」


アリアが言うと、ユリウスも柔らかく笑って肩をすくめた。


「ついでに、ちょっと腕の立つ護衛つきでね」


村人は深々と頭を下げた。


「ありがとうございます……。妻と子が、家に……。助けていただいた命、大事にします」


「他に魔物は?」


エリオットが尋ねる。


「……多分、もういません。でも……時々、ああいうのが来るんです。この山には、前に大きな魔の巣があって……」


「なるほど、残党がまだいるってことね」


エリオットが頷く。


マコトは刀を静かに納めると、ひとつうなずいて、アリアのもとへ戻った。


「師匠……」


アリアが声をかけると、マコトはわずかに目を細めるだけで、何も言わなかった。


だが、それで十分だった。言葉ではない、確かなものがそこにあった。



その後、一行は村の中に招かれ、簡単な食事をふるまわれた。


囲炉裏のある小屋で、湯気の立つ粥を食べながら、村の子どもたちがイリスを追いかけ回している。


「びよん!」


「わあ、跳ねたー!」


イリスは楽しそうに体を伸ばしたり、丸くなったりしている。子どもたちの笑い声が、久しぶりに村に響いていた。


「……ずっと泣いてたのに、もう笑ってる。イリスって、癒やしスライムだな」


ユリウスがぽつりと呟くと、アリアは笑いながらうなずいた。


「でしょ? 私、イリスに何度も助けられてるの」


「うん、なんか分かる気がする。こいつ見てると、つい笑っちゃうからなぁ」


ユリウスがイリスの上にそっと指をのせると、「ぷよん」と柔らかく反応した。


アリアはふと、マコトの方を見た。


彼は一歩引いた場所で、静かに茶を啜っていた。


「師匠、さっきの……すごかったです」


「……」


「前に、剣は守るためにあるって……言ってましたよね」


マコトは、わずかに頷いた。


「今日、師匠が斬ったのは、魔物。でも、あの人たちの恐怖とか、大切なものを護ったって……ちゃんと、伝わってると思います」


静かなまま、マコトは少しだけ目を伏せる。そして、ぽつりと呟いた。


「……斬らずに済むなら、それが一番いい」


アリアは、その言葉に目を見張った。


「でも、守るためには……私も、覚悟しなきゃいけないんですね」


「……剣や杖を持つということは、そういうことだ」


それは、どこまでも静かで、どこまでも重い言葉だった。


けれどその静けさは、剣の冷たさではなく——人の温もりのようにも思えた。


ユリウスが焚火越しに、ぽつりとつぶやいた。


「……斬ったのは魔物だけどさ、俺たちも多分、何か斬られてんのかもな」


「え?」


アリアが顔を向ける。


「……言葉じゃない、空気とか、覚悟とか。なんか、胸がスッとして、痛くなるっていうか……そういうの」


アリアは少し驚いた顔をしたあと、ふっと優しく笑った。


「……それ、わかる気がします」



その夜、村の人々が作ってくれた小さな焚火のそばで、一行は輪になって休んでいた。


イリスがアリアの膝に乗り、ぽよんと心地よく揺れる。マコトは少し離れた場所で月を見ていた。


「……師匠」


アリアがそっと声をかける。


「いつか、私も。誰かのために、迷わず杖を振れるように……なれるでしょうか」


マコトは、夜空を見上げたまま、ゆっくりと返した。


「……もう、なってる」


アリアは、ぽかんとした顔のまま、数秒黙って——そして小さく笑った。


「ふふ、ありがとうございます」


焚火の火が、優しく揺れた。


その光の向こうで、村の小屋の灯りがぽつり、ぽつりとともっていた。


命を救われた家族の、その夜の安らぎが——剣の静かな輝きとともに、そっと見守られていた。





ーーー108話へつづく


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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