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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第七章 過去と未来をつなぐ旅
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105話 アルトリア王国へ - 消えゆく灯と、受け継ぐ灯り

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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宮廷の長い回廊を、アリアは静かに歩いていた。風が通り抜けるたび、窓越しに差し込む光が床を淡く照らし、柔らかな影を揺らす。肩には小さな重み——いつものように、イリスがアリアのフードの中からひょこりと顔を出している。


「……緊張してる?」


イリスは小さく「ぽよん」と跳ねた。


その様子にふっと笑みが漏れる。けれど、胸の奥にあるものは笑みとは別の色をしていた。


今日、アリアは再び祖母・サクラと会う。 もしかすると、これが最後になるかもしれない。


前回会った時——あのときはまだ、自分がサクラの孫であることも、聖女であることも、お互い確かめることができなかった。 でも今は違う。アリアは名乗れる。そして、伝えたいことがある。


「アリア様、こちらです」


案内する侍女に軽く頷きながら、アリアは扉の前に立った。


扉が静かに開かれた。


淡い香が満ちる部屋の奥、窓辺の椅子にサクラが座っていた。年老いた姿ではあったが、瞳はなお澄んでいて、どこか懐かしい匂いがする。


アリアが一歩、また一歩と進み出たとき——


「来てくれて、ありがとう」


サクラの声は、柔らかく、あたたかく、どこか寂しさを帯びていた。


「おばあ……いえ。サクラ様」


言いかけて、言葉を選び直す。


「私は、アリア・ソレイユ・アルベール。あなたの孫です」


一瞬、時が止まったようだった。 けれど次の瞬間、サクラはゆっくりと立ち上がろうとし、足元がふらついた。


「っ……どうぞ、お座りになって」


アリアが駆け寄ると、ふわりと光が舞った。


イリスが、アリアの肩から静かに飛び出し、サクラの肩口あたりに「ぽわん」と乗ったかと思うと、小さな体から淡い金の光をふわりとまとわせた。


サクラは目を見開き、そしてゆっくりと微笑む。


「……この子は、あなたの傍にいるのね」


「ええ。イリスっていうんです。わたしの、大切な存在です」


「この小さな子……いま、私の身体の痛みを……やわらげてくれたのね。ありがとう」


そう言って、サクラはイリスをそっと撫でた。

イリスはくすぐったそうに「びよん」と跳ね、アリアのフードへ戻っていく。


「あなたの瞳……やっぱり“見える人”なのね」


「え……?」


サクラはアリアの顔を静かに見つめる。


「その瞳に宿るものは、ただの聖力じゃない。“あちら側”の記憶が、光となって見えている」


アリアは、はっと息を飲む。


「……この前、ある神殿跡で……見つけたんです。古い手記を」


そう言って、アリアは布に包んだ小冊子を取り出し、サクラに手渡した。


サクラは丁寧にページをめくる。そして、最後のページに目を留めた。


「……“太陽国 第二皇女 菊子”」


「この文字、わたしには……前世で使われていた“日本語”に見えました。お父様が研究していた通り、やっぱりキク様は——」


「異世界から、来られた方だったのね」


サクラは微かに微笑んだ。


「きっとこれは……あなたが次のあかりを灯すために、導かれたものね。私はもう、消えゆく(ともしびだけれど」


アリアは思わず膝をつき、頭を下げた。


「わたし……何もわからないまま、ただ進んできました。でも、ようやく少しずつ、自分の道を見つけ始めた気がします。……あなたがいたから、ここまで来られたんです」


その声は震えていた。


サクラはゆっくりと手を伸ばし、アリアの髪をそっと撫でた。


「あなたは、やさしい子ね。……でも、やさしさだけでは、きっと壊れてしまう。これからも、仲間と支え合って」


「はい。……紹介したい人たちがいます」


アリアは立ち上がると、部屋の外に控えていた仲間たちを呼び入れた。


最初に入ってきたのは、ユリウスだった。


「この方は、ユリウス・アルベール。ウィステリア王宮騎士団で兄であるルシウス騎士団長の補佐をされていました。サクラ様にお仕えしていた侍女の娘、マーガレット夫人の……」


「お孫さん、ですね」


サクラは目を細めた。


「ええ。あの子の面影があります。……あなたが、アリアを守ってくれているのね」


ユリウスは深く頭を下げた。


「光栄です、サクラ様」


続いて入ってきたのは、マコト。


「そして、この方は……マコト師匠です。私にとって何度も助けられ支えてられてきた人。きっと、前世でも出会っていた人だと思います」


マコトは微笑んで一礼した。


「私など、何の力もありませんが……縁あって、お嬢さんに剣と心の扱いを少しばかり」


「その“少しばかり”が、大きな支えになるのよ」


サクラは笑い、マコトも「はは」と優しく返した。


前回アリアと共に聖女サクラに対面しているエリオットは、


「サクラ様に、再びこうしてお目にかかれて光栄です。アリア様を無事お連れできて、本当に良かった」


とホッとしたように微笑む。



「……あなたは、いい仲間に恵まれているのね、アリア」


「はい。ほんとうに、支えてもらってばかりで……」


「支えられる人間になれたということよ。それもまた、あなたの力」


部屋には、柔らかく、温かな空気が流れていた。


もう長くは会えない——それを、誰もがわかっていた。


それでも、こうして言葉を交わせたことが、アリアにとって何よりの宝となった。


「ありがとうございます、サクラ様」


「……ありがとう、アリア。どうか、あなただけの(あかりを、見つけて」


窓の外、風が優しく吹き抜けていた。




庭に出ると、水やりをしている女性の姿が見えた。

アリアは足を止める。


「……セリシアさん?」


彼女は振り返り、少し驚いたように立ち上がる。


「アリア様……いえ、アリアさん」


かつてのような気負いや誇りは、そこにはなかった。

代わりに、静かな真摯さがにじんでいた。


「今は、聖女さまのおそばで……浄化魔法を学びながら、怪我人のお世話をしています。罪は……消えません。でも、誰かのために生きたいんです」


アリアは、少しだけ笑った。


「私も、きっと同じ気持ちです。だから……今のあなたを、信じます」


その言葉に、セリシアは深く頭を下げた。



部屋に戻ると、夕日が金色の光で壁を染めていた。

サクラの手記と、キクの記録。

そして、イリスが残した柔らかな光。


――灯された小さなあかりは、静かにアリアの心を照らし始めていた。


これからきっと、もっと多くの人のために。

祖母がそうであったように、自分もまた――


「……ありがとう、イリス」


肩にいるイリスにそう囁くと、くるりと体を丸め、ぽよん、と満足げに跳ねた。


その日の夕暮れ。

サクラの部屋から差し込む西日が、金色に壁を染めていた。


「……私にできることは、もうわずかだけれど」


サクラが囁くように言った。


「あの子に残してあげて。心からの信頼と、真実を――」


その願いが、アリアの心に灯る新しいあかりとなった。



――私はまだ、歩める。仲間たちとともに。


そしてきっと、また誰かの光になれるように。




ーーー106話へつづく


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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