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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第六章 王都セントラル編
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99話 終わりと始まり - 決意の宴

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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王宮に広がっていた重苦しい空気が、少しずつ和らぎつつあった。


戦後処理が着々と進められる中、それぞれが次なる道を歩き出していた。


エレノアはカイルとともに、静かに王都郊外の墓地を訪れていた。

両親、そして事故に見せかけ命を奪われたリリア一家の墓前に、花を手向けて頭を垂れる。


「…もう、怖がってばかりの私じゃないよ」


風に揺れる髪を押さえながら、エレノアは墓前で小さく微笑んだ。

――私は、この国を守る。命を懸けて私を守ってくれた人たちのためにも。


彼女の横で、カイルは黙ってその姿を見守っていた。

彼の目には、過去の恐れに囚われていた少女の面影は、もうなかった。


その日の午後、エレノアはアリアの両親――オーウェンとユリの墓前にも花を手向けた。


「…あの時、オーウェン様が護ってくださらなければ、私はきっと…」


そう言って、深く頭を下げるエレノアの姿に、アリアはそっと肩に手を添えた。





その頃、アルベール家でも一つの決断が告げられていた。


「…兄さん、僕はアリアの旅に同行したい」


真っ直ぐにルシウスを見つめるユリウスの声に、ルシウスは微笑んで頷いた。


「王族として世界を知り、支援する。それも大切な務めだ。――行ってこい、ユリウス」


「ありがとう」


ユリウスは深く頭を下げた。


傍らで聞いていたマーガレット夫人は、目頭を押さえながらも、しっかりと背筋を伸ばしていた。


「アリアを、必ず護るのよ」


「はい、必ず」


「装備や道具は、すべて最高のものを。どんな国に行っても恥ずかしくないように整えておきますからね」


慈しむようなその言葉に、ユリウスは胸の奥が温かくなるのを感じた。

彼女の中に今もある「母のような悔い」――それが、言葉の端々ににじんでいた。





数日後。


アリアの私邸には、たくさんの人が集まっていた。


旅立ちを前にした“ささやかな宴”は、別れを惜しむ人々の温かさに包まれていた。


騎士団員たちや、グレゴール叔父さん。

かつてアリアを占い処に訪ねてきた貴族夫人リディアとそのご主人である侯爵も、マーガレット夫人の声かけで顔を見せていた。

リディア夫人が侯爵の腕にそっと手を添える様子を見て、アリアは思わず微笑んだ。


「…よかった。あの頃より、ずっと穏やかなお顔をされてる」


占い処の常連たちも、手土産片手に訪れ、アリアの旅立ちを祝福する。


邸宅の庭では、小さな光が跳ねるように動いていた。


「イリス!」


「ぽよん」


虹色のスライム・イリスが、庭を跳ねていた。

その周囲には、王都の水路に暮らす透明なスライムたちも姿を見せていた。


彼らは、決戦の最中に起きた大火災の際、街の水路を通じて炎を封じ込め、火の手を防いだ功労者たちだ。


アリアはそんな彼らのために、ひんやりとした果汁ゼリーと、焼きたての香ばしいお菓子を用意していた。


「さあ、みんな召し上がれ。ありがとう、助けてくれて」


スライムたちは静かにぷるぷると揺れながら、嬉しそうにそれを味わっている。


「イリス、これからしばらくみんなと会えなくなるけど…また帰ってきたら、皆で遊ぼうね」


「ぽよん!」


イリスは高く跳ねて、アリアの胸にぽふりと飛び込んだ。


その様子を遠巻きに見ていたマコトとエリオットも、穏やかな表情を浮かべる。


「ずいぶん賑やかな旅になりそうですね、アリア嬢」


エリオットの言葉に、マコト師匠がふっと笑う。


「聖女の旅にしては、随分と多彩な面々だが――それもまた良し、か」


アリアの旅は、ウィステリア王国の外へ広がる“世界”へと向かう。

各国に眠る怨念や闇を浄化し、現地の聖女や聖職者の在り方を知り、学びながら、アリア自身の聖女としての在り方を固めていくためのもの。


その夜、宴が終わり、皆が帰っていった後。

アリアは静かに自室の扉を閉めた。


深く息をつき、机の引き出しから千里鏡を取り出す。

指先でそっと魔力を込めれば、鏡面に優しい光が広がり、やがて二人の女性の姿が映し出された。


一人は、アルトリア王国の王妃であり、アリアにとって大切な理解者であるアメリア王妃。

もう一人は、若かりし日の面影をそのままに宿した、伝説の聖女サクラ――アリアの祖母。


「アリア…そなたの顔を見ると、元気が出ますね」


アメリア王妃の柔らかな声に、アリアは微笑み返した。


「お二人に、お伝えしたいことがあって。――私、数日後に旅に出ます」


「やはり…」


サクラが頷く。


「この国だけでなく、世界に満ちる闇に立ち向かうために。

各地の聖地や教会、聖職者の在り方を見て回って、学びながら、私自身の“聖女としての在り方”を探したいと思っています」


言葉の一つ一つに、アリアの覚悟がにじんでいた。


「そして…旅の途中で、アルトリア王国にも立ち寄らせていただきたいのです」


その言葉に、アメリア王妃は表情を和らげる。


「ええ、いつでも歓迎します。あなたの旅路が希望に満ちたものでありますように」


サクラはそっと両手を合わせ、静かに言った。


「…アリア。聖女とは、“祈り”ではなく“行動”で世界を導く者。どうか、その優しさを、恐れずに信じて」


「はい、祖母様」


鏡面がゆっくりと光を閉じ、静寂が戻る。


アリアはそっと窓を開け、星々を見上げた。

イリスがそばでぽよんと跳ねる。


「行こうね、イリス。まだ見ぬ世界へ」


月光に照らされた横顔に、決意の光が宿っていた。


――その旅の先に、どんな未来が待っているとしても。

この想いだけは、決して揺るがない。




ーーー100話へつづく


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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