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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第六章 王都セントラル編
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97話 最終決戦(中編) - 選び取る、わたしの在り方

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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魔力の奔流が去ったあと、世界が一瞬、凍りついたように静まり返った。


戦場のざわめきも、仲間の叫びも、遠い。


アリアはその中心で、一人立ち尽くしていた。


――カン、と何かが弾けたような音がして。


まるで呼び水のように、そこに“声”が満ちる。


『……あなたは、まだ迷っているのですね』


柔らかく、それでいて芯のある声。


アリアが顔を上げると、淡い金の光が空間に漂い、やがてひとりの女性の姿を結ぶ。


光をまとった白銀の髪。目元に揺れる紅の印。

精緻な意匠が施された装束は、どこか東の国を思わせる趣で――しかし、この世界のどこにも属していない異質さがあった。


「あなたは……?」


『わたしの名は菊子。太陽国・第二皇女。……そして、この地に召された“初代聖女”キク』


アリアの目が見開かれた。


「太陽国……? まさか……」


『あなたの曽祖母にあたります。もっとも、“魂の記憶”という言い方の方が近いかもしれませんね』


キクは微笑む。けれど、その微笑みに浮かぶ影は薄くない。


『わたしは元の国で“斎の役目”を背負い生まれました。祭祀のために選ばれ、王家の一柱として祈る存在。心を捨て、身体を捧げ、“依り代”として生きる宿命を受け入れていた』


『けれど、目覚めたらここにいた。この異世界に。そこで人々は、わたしを“聖女”と呼びました』


アリアは、胸の奥がきゅっと締めつけられるような感覚にとらわれた。


「……それって、運命みたいなもの、だったんですか……?」


『運命だったのでしょう。あるいは、逃れられなかっただけ。血が、魂が、役目を呼ぶのでしょうね。だからあなたにも……“聖女”という名前が降りてきた』


キクは一歩、アリアに歩み寄る。


『この世界で、わたしは祈りました。癒し、導き、命を贄にしてでも秩序を守った。

そのすべてが、必要だったと信じたから。』


『でも、ふと気づくのです。――わたしは、“わたし”を知らないまま死ぬのだと』


声に、ひびが入る。


『好きな人の手を取ることもできず、子を産みながらも育てることも、母になることも許されなかった。

魂だけが残り、この地に“祈りの名残”として留まっている。まるで……風の中に溶けた花の香りのように』


アリアの手が、無意識に胸元をぎゅっと握りしめていた。


聖女は、人ではなくなるのだ――そう思った。


「……私も、同じになるんでしょうか」


『いいえ。違うから、あなたに語りかけているのです』


キクの声が、少し強くなった。


『あなたは、私とは違う選び方をしている。

誰かと笑い合い、泣きながら立ち上がり、大切な人たちと並んで生きている。

“聖女”の名の下に、誰も踏みにじらないと、そう決めて進んできたでしょう?』


アリアの喉が詰まる。


その姿を、キクはやさしく、しかし確かに見つめていた。


『あなたが私と違う道を選んでくれることが、救いなのです。

わたしの痛みを、記憶のまま終わらせないでほしい。

“聖女とは、こうあるべき”ではなく、“あなたが聖女であるなら、こうある”という姿を、示して』


アリアは、ふるふると首を振ったあと、ゆっくりとうなずいた。


「わたしは、誰かの願いを叶えるだけの存在じゃない。誰かの手を取って、共に生きる未来を選びたい。“聖女”であることが、“ひとり”であることの代名詞にならないように……」


目の奥から、熱いものが込み上げる。


それは悲しみでも、同情でもなかった。

「誓い」だった。


キクの光が、少しだけ柔らかくなる。


『それでこそ、アリア』


『あなたに、この世界を託します。――どうか、生きて』


言葉が終わると同時に、キクの姿は光とともにほどけていった。

まるで、長い冬が終わり、雪が解けるように。


そしてアリアの足元に、風が吹き抜ける。


戦場が、再び息を吹き返す。


仲間たちの気配、剣のぶつかり合う音、魔法のきらめき――それらが一気に押し寄せてきた。


「……行こう」


アリアは立ち上がる。


“私”として。

そして、“聖女”として。


選び取った、私だけの在り方で。




ーーー98話へつづく

※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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