96話 最終決戦(前編) - 交差する、希望と憎しみ
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石畳を打つ足音が、ひとつ、またひとつと増えていく。
夜の静寂を破り、仲間たちが闇を裂くように駆けつけてきた。
エレノアとカイル。
ルシウスとユリウス。
そして、遠く離れた塔の上では、レオンが千里鏡を構え、息を殺している。
アリアは玉座の間の奥から、仲間たちの顔を見渡した。
荒い息遣い、泥にまみれた衣。
どの顔にも、戦いの痕がにじんでいる。
「……イリス」
声をかけると、虹色のスライムがぽよんと跳ねた。
仲間の間をすり抜け、擦り傷や切り傷の上をやさしく這っていく。
そのたびに、あたたかな光が灯り、癒しが広がった。
アリアもまた、そっと手を差し出す。
浮かび上がった魔法陣がやわらかな光を放ち、疲弊した心身を少しずつ癒やしていく。
「助かった……ありがとう、アリア」
「……ふぅ、これで少しは動けそうだ」
漏れる安堵の声に、アリアは静かに微笑んだ。
「まだこれからよ。本番に向けて、整えておかないと」
カイルが杖を握りしめ、鋭い眼差しで頷く。
「癒しはありがたい。でも油断するな。ここからが……本当の地獄だ」
「まったくね」
エレノアが髪をかき上げ、前を見据えた。
*
エルヴァンが杖を掲げると、禍々しい魔力が空気を震わせた。
隣に立つのは、蒼白な微笑を浮かべた男――カシエル。
「さあ、幕を引こう。俺たちの正義で」
玉座の間に、重く冷たい空気が満ちていく。
二人は短く頷き合うと、静かに魔術を紡ぎ始めた。幾何学模様の術式が空中に広がり、赤い光が奔る。黒き魔力が、うねりながら彼らを包み込む。
「来るわよ……!」
エレノアの声が響いた瞬間、エルヴァンの姿が変貌した。
漆黒の闇に包まれ、鋭く伸びたその体は、もはや人の姿ではなかった。
カシエルもまた、漆黒の翼を広げ、赫い瞳が妖しく光る。
「……最終形態か」
ルシウスが剣を構え、低く呟いた。
「アリア。ここで決めるぞ」
マコトが前に出る。握りしめた剣が、静かに音を立てた。
次の瞬間、エルヴァンが動いた。
奔流する魔力が空間を揺るがす。
エリオットがすかさず前へ躍り出た。
「シェル・ディフェンス!」
彼の杖が輝き、仲間たちを包む結界が展開される。
まるで一輪の花のように、優美で強靭な光が広がった。
続けて、カシエルの放つ闇の矢が、空気を裂いて飛ぶ。
エレノアが杖を掲げ、防壁が淡い光を放った。
「カイル、左をお願い。私は中央を制圧する」
「了解。……無茶すんなよ」
二人は軽やかに駆け出し、敵陣を分断する。
マコトもまた剣を引き抜き、地を蹴る。
「ルシウス、ユリウス! 前衛は俺たちで押し切る!」
「了解!」
ルシウスが剣を抜き、ユリウスも無言で頷いて並び立つ。
三人の剣士が、同時に敵陣へ突撃した。
アリアは後衛に残り、仲間たちを癒し続ける。
イリスが肩に乗り、光を放ちながら魔力を補助していた。
「痛みは私が受け取る。だから、前を向いて」
アリアの言葉に、エリオットが頷いた。
「アリア、俺が守る。君は倒れるな」
「……ありがとう、エリオット」
杖の先に、ミストラル村の願いが灯る。
その光が、仲間たちを照らしていた。
*
戦場は、混沌に包まれていた。
エルヴァンの放つ業火が、前線を飲み込もうとする。
それを、エリオットとエレノアの結界が何重にも重なって防いだ。
「間に合えっ!」
エレノアの叫びと同時に、炸裂する炎が結界に阻まれる。
爆風だけが空気を撫で、熱が頬をかすめた。
「ナイスだ、エレノア!」
カイルがカバーに回り、敵の狙いを逸らすように精密な牽制魔法を放つ。
その隙を突き、ルシウスとユリウスが異形のカシエルに斬りかかる。
「このっ……なんて硬さだ!」
ユリウスの剣がカシエルの腕をかすめるが、深くは届かない。
「剣じゃ足りないか……でも、諦める気はない!」
ルシウスが叫び、兄弟の連携で一気に間合いを詰める。
カシエルの赫い瞳が冷たく光った。
「無駄だ。その正義では、俺たちの憎しみには届かない」
「違う! 俺たちは希望のために戦ってる!」
ユリウスが叫んだ――その瞬間。
ドンッ!!
大地が揺れた。
マコトが放った【時雨斬り】が地割れを生み、エルヴァンへ迫る。
「力じゃない。“想い”こそが、人を救うんだ。今、それを見せてやる!」
「思いで命が救えるなら……誰も泣かない!」
エルヴァンの絶叫と共に、魔力の奔流がマコトの剣にぶつかる。
轟く衝撃波が戦場を揺らしたが、マコトの足は止まらない。
*
そのとき、後方から光が差し込む。
「アリア、補助魔法通すわ!」
エレノアの強化魔法が、仲間たちの身体を包み込む。
エリオットも声を張る。
「結界、再展開! 前衛の支援、強化する!」
「イリス、もう一度お願い!」
アリアの言葉に、イリスがふるふると震え、全身を輝かせた。
光が仲間の魔力と呼吸を整えていく。
そして――
エルヴァンが、魔力をさらに高めた。
「見せてやる。選ばれなかった者たちの、最後の力を!」
空間が、悲鳴のようにきしむ。
「来るわ! 全員、構えて!」
アリアの声に、仲間たちが一斉に動いた。
正義と正義が、ぶつかり合う。
憎しみと希望が、交錯する。
これは終わりの戦いじゃない。
未来を選ぶための、始まりの戦いだ。
ーーー97話へつづく
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




