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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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285.治癒魔法は雄弁に語らない③

「あの四人組なら、今夜はもう来ないでしょう。そこまでの根性はないはずです」

 宿屋への帰り道、レッドが見回りに行ったという話を受けて、イザークさんが言った。


 彼ら──鼻つまみ者四人組は、わたしたちのような余所者に絡むだけでなく、時には野営地の冒険者にもちょっかいを出すことがあるのだという。

 彼らも、力では本職の冒険者に敵わないことがわかっているので、こそこそと盗みを働くらしい。

「あいつら最近、それで酒の味を覚えやがって、村の酒倉を狙うようになってな」

 宿屋のご主人が愚痴り始めた。


 他にも、畑の作物を盗んだり荒らしたり、罠猟の獲物を横取りしたり狩り場を荒らしたり、歳下の子を脅してオモチャを取り上げたり、つまらない悪さをしているらしい。

「随分と可愛らしい悪党だな」

「微笑ましいヤンチャっぷりだね」

 クロスとリオンの相槌はそんな感じだった。


「お客さん方はあいつらの被害にあったことがないから、そんな呑気なことが言えるんですよ! あいつら、女房が大切にしていた裏の畑を目茶苦茶にしやがって!」

 ヒト族を宿泊させている宿への嫌がらせだそうだ。

「でも、誰も殺していないんでしょう?」

 リオンが柔らかな声で言った。


 そこに、半笑いで被せたのがレッドである。

「だってあいつら童貞だろ? 人なんか殺したら、びびって吐き散らかすタイプだぜ!」

 イザークさんが大ウケして派手に吹き出した。


 ──ああ、レッドの育ちの悪さが浮き彫りだ。

 生粋の盗賊に使われていたレッドは、最初に会ったときから、人を殺した経験があると言っていた。

(褒められたことではないけれど、それがあったからこそ、重宝しているのも確かなのよね)

 刺客を返り討ちにする度、いちいち狼狽(うろた)えて吐かれるようでは困るのだ。

 馬車強盗のときも、容赦なく何人も葬った。そういう意味ではレッドは童貞ではないと言える。

 それは、ベテラン冒険者であるリオンとクロスも同じだろう。貴族として初陣を果たしているのなら、尚更(なおさら)である。

 盗みやカツアゲ程度は、冒険者や従軍経験者から見れば“可愛い”部類なのだ。

 だから、族長らも傭兵団の人々も、四人を矯正しようとは思わなかったのだろう。


「こら、そこの紳士諸君! レディーが同道しているのですから、会話はもうちょっとお上品にお願いしますね」

 最後尾を歩いていたリエラさんが、男性陣に苦言を呈する。

 リエラさんと並んで歩いていたわたしも、苦笑するしかない。


「レッド、どれだけ呑まされたの? 酔ってる??」

「別に。オレは昔っからこんなんだよ。下品な盗賊上がりさ」

 レッドはそう言ってへらへらしている。

 ああ、駄目だこれ。酔っている人ほど「酔ってない!」と言い張る例のあれだ。

 今度会ったら、傭兵団の人たちには文句を言っておこう。

 

 まあ、童貞童貞と連呼するくらいは、取り立てて眉を(ひそ)めるほどでもないので構わない。

 深窓のご令嬢とは違うのだ。お酒の席での猥談など、初めて聞くわけでもない。

 近所のお姉さんたちは、素面でもっと露骨な話をしていたから、とっくに慣れた。

 ギルド酒場の男性冒険者などは、大半が金銭(カネ)女性(オンナ)の話しかしていない。料理の味もわかっているのかどうか、怪しいくらいのものなのだ。

 下働きをしていた当時──給仕はしていなくても、食器を下げに店頭に出れば、嫌でもそういう会話は耳に入ってくるものだった。


 *

 

 宿に着いた後、わたしたちは結局、早めに休むことにした。

 色々あって疲れていたし、今からお風呂の用意をしてもらうのも申し訳なかったので、全ては明日に回すことにしたのだ。

 つまりはなんと、贅沢の極みである“朝風呂”を体験させてもらえることが決定している。


 早朝から、水汲みに何往復もしてもらうのも申し訳ないので、手隙になった時間帯で構わないと言ったのだけれど、問題は意外な方法でさくっと解決してしまった。

 リオンとクロスが、魔法と魔道具を駆使すれば、あっという間に水を溜められると言ったのだ。


「宿営地で風呂を作る手間に比べれば、たいしたことはない。特に魔力を節約する必要もないからな」

「そうだね。見た感じ、実家の浴室よりも狭そうだから楽勝だよ」

 冒険者パーティーなどの少人数の野営ならば、浄化魔法で乗り切れる。

 パーティーメンバーに生活魔法が苦手な者がいたとしても、数人ならば魔法使いがカバーできる。

 が、軍の演習や遠征などで大所帯の移動となると、そうはいかない。


 下っ端の中には魔法が苦手な平民出身の兵士もいれば、戦闘時のために魔力を温存しておきたいという魔法使いも多い。

 むしろ魔法使いこそ、風呂代わりに浄化魔法を濫用している場合ではないと考える。

 生活魔法がほとんど魔力を消費しないとはいえ、戦場では、ほんの1エナ以下の魔力の有無が生死を分ける場合があるのだ。


 そのため、基本的に風呂は物理で用意する。

 長期間の宿営ともなれば、衛生面や士気の面からも、食事や寝床に加えて、浴場は必須であるとされている。

 人力で穴を掘ったり、石を組んだりして簡易の浴槽を用意することもあれば、魔道具を組み込んだ小型の浴槽を携行している場合もある。

 水は、水源の確保が難しい状況に備えて、魔石と魔道具を複数携行しているのだという。

 熱源は、風呂でも料理でも現地調達が常識だった。


 簡潔にそんな説明をしてくれたので、二人とも従軍か演習の経験があるのだろうことが察せられた。

 が──リオンについては、貧乏貴族の三男坊と名乗っていることが、絶対に嘘だとバレた瞬間でもあった。


(だってここの浴槽、ヴェルメイリオ家(伯爵家)よりも大きいのよ?)

 成金の伯爵家より大きな風呂を、「実家より小さい」と言ってしまえる下級貴族がいるはずもない。

 ヴェルメイリオ家は、伯爵家だけれど成金だから、公爵家にも匹敵する財力を持っていると噂されているのであって、普通は財力と階級は比例するものなのだ。

 リオンはきっと、貧乏ではない(・・・・・・)貴族家の三男に違いない。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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