284.治癒魔法は雄弁に語らない②
最後の三人の治療が終わるころには、リオンはロック君たちに囲まれて正しい冒険譚をねだられていた。さすがはリオンと言うべきか、すでに種族の垣根は微塵も感じられなくなっている。
クロスは何も言わず、近くにあった椅子に腰掛けている。この余興が終わるのを待っているようだった。
一度だけ、途中で小さくため息を吐いたのが聞こえた。
(な、なに……?)
やっぱりわたし、何かやらかしてる!!??
それから治療も宴会も終わり、会場にいた村人たちの人数も徐々に減ってゆき、わたしたちも宿へ引き上げることになった。
最後にマルコ君のお父さんとおじいさんが挨拶に来て、何度も繰り返しお礼を述べるものだから、なかなか解散できなかったのはご愛嬌だ。
「お礼は後日、改めてきちんと」
とかなんとか、深々と頭を下げるおじさんたちを曖昧に受け流し、わたしは慌てて宿へ向かう一向に合流した。
どうせ同じ場所まで戻るわけだし、宿のご主人が大きな角灯を持っているので、一緒に出たほうが都合がいい。
今度は、モントレーさんがいない代わりに、リエラさんとイザークさんが一緒だった。
「すみません、モントレーは潰れました」
律義にモントレーさんが酔い潰れたことを謝罪するイザークさん。
わたし、リオン、クロス、イザークさん、宿屋のご夫婦──あれ、レッドは?
ふと見渡すと、見慣れた猫耳の少年がいない。
「レッドは?」
子供ではないのだから、はぐれても宿屋まで戻って来られるだろうけれど、合流に遅れることは初めてだったから、少し驚いて声を上げた。
レッドはいつも、タイミングを見計らうのがとても上手いのだ。
「悪ぃ! 遅れた!」
「遅いよ、どこ行ってたの?」
一瞬、傭兵団の人たちに捕まって、二次会にでも連れて行かれたのかと思った。
「ちょっとヤボ用」
「何よそれ、もう宿へ帰るわよ」
「またあいつらが来ると厄介だからさ、ちょっと見回りがてらそこら辺を……」
「もう、それで遅れたら意味ないでしょう」
「ごめん、って」
そんなこんなで、ようやくわたしたちは宴会場を後にした。
敷地を出る前に、ウランさんたちにも挨拶をして、来たときのようにぞろぞろと帰路につく。
*
帰り際、ミラノちゃんたちが追いかけてきて、また明日も会える? と名残惜しそうに言った。
「お話の続き、聞かせてほしいの!」
ロック君とティアナちゃんも、こくこくと頷く。
ちなみに、ジーン君は後片付け組の中に残ったので、彼とは建物内で挨拶を済ませている。
マルコ君は、お父さんとおじいさんに手を引かれて、嬉しそうに帰っていった。
(えー……)
続きと言われても、もうネタがない。
ダンジョンでツノウサギを調理して食べた話なんかは、当たり障りがないので、きっとノアさんが話しているだろう。
そうなると、後はあの“ろくでなし”パーティーのメンバーが、生きたまま魔物に食い殺された話くらいしか残ってないけれど……それでもいいのだろうか?
少し考えてから、わたしはリオンの顔を見た。
(そうね。わたしじゃなくて、リオンの冒険譚を聞きたいという意味かもしれない)
「アリアちゃん、どうしたの?」
怪訝な顔をしたリオン。
そして、すぐに察して「ごめん、また今度ね」とミラノちゃんたちの頼みを断った。
ミラノちゃんが言う「お話の続き」が、先ほどまで自分がねだられていた冒険譚のことだと悟ったのだ。
素早く、それでいて爽やかな断り方だった。
「明日は馬を見せてもらう約束なんだ。アリアちゃんの馬だから、本人がいないと困るかな」
(え、わたし?)
「だから、明日はアリアちゃんを貸すことはできないんだよ」
リオンの言い方だと、ミラノちゃんたちが話したがっているのは“わたし”という意味になる。
(嘘でしょ? わたしの話なんか聞いても面白くないわよ)
あんなグロい話で喜んでくれたのは嬉しいけれど……相変わらず押しの強い子たちである。
娯楽に飢えていて、とにかく目新しい話を聞きたがっている。
つまりは、せっかく見つけた“娯楽”を逃がすまいと必死なのだ。
「なら、夕食のときにでもうち来てよ! お母さんに、とっておきの料理を作ってもらうわ!」
「あ、いえ、夕食は宿でいただくことになっているし……もう材料とかも用意してあるでしょうから……」
さすがに、ご家族の前でパーティーメンバーがミンチになった話はできない。
夕食のメニューがハンバーグだったりした場合、なんとも言えない雰囲気になるだろう。
が、ミンチ描写を避けようと思えば、一言で会話が終わってしまう。
レッドを伴って行ったところで、調子に乗って本物の盗賊団での武勇伝を披露されたりしても困る。
ロック君やジーン君なら、何も考えずにカッコイイ! の一言で済ませてくれるかもしれないが、普通の家庭では、ご家族がドン引きするだろう。
引かないのは、冒険者の身内くらいのものである。
どうしたものかと悩んでいると、ちょうどミラノちゃんやティアナちゃんのご両親が、二人をお迎えに来てくれたので助かった。
ミラノちゃんが夕食会の話で粘っていたけれど、なんだかんだで約束は成立しなかったから大丈夫だろう。親御さんが空気の読める人たちでよかった。
ロック君は、男の子だからかお迎えは来ていなかったけれど、家が同じ方角の友達と一緒に帰る約束をしているとのことで、あっさりとその場を後にした。
「じゃあ、また明日!」
ロック君は去り際に、いつでも会える友達に向けるような軽い挨拶を残していった。
本当に明日また会えると思って言っているのか、ただの社交辞令としての言葉なのか、ちょっと判断できなくて悩んだのは秘密だ。
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