283.治癒魔法は雄弁に語らない①
「今、何人目だ?」
怪訝そうにこちらを見ていたクロスだけれど、口を開いたかと思えば、そう問うてきた。
「十三人目くらいかな?」
「今ので十五人目だよ。あと、この三人で終わり」
わたしが言うと、代わりに被せるようにジーン君が答えて、残りの三人を指し示した。
ほろ酔いでご機嫌なのか、男性三人は大きな身振り手振りを交え、取り留めもない話をしながら順番を待っている。
もはや列を作って並ぶほどの人数ではなくなったので、ただ集まってだらだらと駄弁っているという感じだ。
お喋りの中にはロック君たちも混じっていて、時々、どっと大きな笑い声が上がっていた。
一方で、十五人目と聞いたクロスの返答は、ふーんという素っ気ないものだった。
意外である。
(てっきり、小言を言われるかと思ったのだけれど……)
治癒魔法での治療行為を、無許可で行うことは違法である。
教え子(仮)が小遣い稼ぎに法を犯そうとするのは、止めるのが正しい教育者の在り方ではないだろうか。
「なんともないのか?」
それしか言わないけれど、魔力残量のことに違いない。
「初級治癒魔法しか使っていないから、大丈夫よ」
「……ならいい。余興なんだろう?」
「ええ、そうね」
「協会の利権を侵害しなけりゃ、いいんじゃないか。協会よりも、エルフ村の連中に目をつけられないように気をつけろ」
あっ……!
そうだった。いくら余興だと言い張っても、わたしが治療をすれば結果的に、エルフ村のエルフさん達の収入源を奪ってしまうことになる。
こういうのは、後々モメる原因にもなる。
闇治療ではこの辺りの村々は、エルフ村のエルフの魔法使いのシマなのだ。
「気をつけるわ。もうやらない」
他人のシマを荒らすとどうなるかは、お姉さんたちから何度も聞いた。
客引きをしてはいけない場所──法的にではなく、一帯の勢力図による棲み分けによる──に立っていたために、同業者の女性たちから酷い暴力を受けたことがある、と。
あの辺りの下町や貧民区では、女性でも簡単に平手打ち以上の暴力を振るえる。
女性というのは、決してお上品なだけの生き物ではないのである。
冒険者女性は言うに及ばず、下町の女性たちは男性と対等に渡り合う者も多いのだ。
その上で、女性対女性の暴力となると、壮絶なことになるらしい。
(モップで殴るくらいは可愛いもの、ってところかしら)
メイドをしているような者たちは、掃除でモップを扱うことはあっても、長物で人を殴ることには長けていない。
おそらく、お姉さんたちが同業者の女性から受けた暴力は、わたしが受けたイジメよりもはるかに酷かったのだろう。
ましてや、魔法に長けたエルフ族を怒らせたとあっては、どのような折檻を受けるかわからない。
(呪われたり……するのかしら……?)
わたしがハーフエルフ同様の容姿をしているからといって、大目に見てもらえるとは考えないほうがいいだろう。
これは種族の問題ではなく、領有権侵害の問題であるからだ。
それにハーフというのは結局のところ、どちらの種族からも疎まれるものだ。
ウランさんが言うには、エルフ村ではシアンのような余所者のエルフも、ハーフエルフも、問題がない限り受け入れてくれるそうだけれど、それはひとえに、同族の血が流れている者がヒト族に隷属させられることを良しとしないがための、温情であるにすぎないのだろう。
*
残った人たちを治療する間も、クロスは黙ってその様子を見ていた。
無言で観察するような視線を向けられていて、妙に緊張した。
(わたし、術式を間違えたりしていないわよね……?)
魔法の実技試験なんて受けたことはないのだけれど、なんだか実技試験を受けているような気分だった。
(もしかして、詠唱を省略していたのが拙かった……!?)
半人前が生意気な技を使うな、とか言って後で怒られたりするのかしら……。
魔法に限らず、往々にして先輩や年長者の立場を斟酌しなければならない場面は多い。
それは冒険者の間ではよくあることだったし、寄宿学校でも同じだった。
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