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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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282.治癒魔法は雄弁に語る㉝宴の終わり

 行列が残り三分の一ほどになったところで、しばらく姿が見えなかったリオンとクロスが戻ってきた。

「お前はいったい何をやっているんだ?」

 開口一番、そう言ったのはクロスである。

「えっと……余興?」

 庭の調理器具やテーブルセットなどは徐々に片付けが始まっていて、宴はお開きの時間が近づいていた。


 これは後で聞いた話なのだけれど、わたしの治癒魔法を受けた人たちが、急にテキパキと動けるようになって、いつもの倍速で片付けが進んだのだそうだ。

 いつもは酔っ払いが管を巻いていて、なかなか撤去作業が進まないのだけれど、今回は酔い潰れの常連さんたちまでもが、素面(しらふ)で驚きの行動を見せたらしい。


(どうも治癒魔法のせいで、完全に酔いが覚めちゃったみたいなのよね)

 肩や腰の痛みのせいで、普段から最小限の働きしか見せない人たちが、酔いも手伝って冷やかし半分で並んでいたのだ。

(一応、治療の前に警告はしたのだけど……)


 *


 泥酔ならば、明らかな状態異常に分類されるため、どの治癒魔法を掛けたところで影響は出ない。

 が、レベルの低い治癒魔法の場合、病気やケガと、状態異常の区別が曖昧なのだ。

 いわゆる“何にでも効くが、どれも完治しない”ような状態になる。


 多くの新人冒険者は、ギルドの講習会で最初に習う治癒魔法を、戦闘中に負った傷の治療に使う。

 初級とはいえ、治癒魔法があるからこそ、新人でも討伐依頼を受けることができるのだ。

 そして、新人のレベルを脱するころには、役割の細分化ができている。


 剣士は剣を、魔法使いは魔法を、より本格的に極め始める。

 剣士は自分に合った剣の種類やスタイルを追求し、魔法使いはさらに攻撃魔法特化型や回復魔法特化型などに分岐する。

 役割が細分化されるに従って、治癒魔法は聖属性魔法を扱えるジョブの専門技術となり、彼らは治療院や教会に囲い込まれて神聖視されるようになるのだ。

(いくら治癒魔法を極めたところで、亜人種(ハーフエルフ)のわたしには関係のない話だけれど)


 そのため新人や初級の冒険者には、初級治癒魔法を傷の治療以外に使ったことのない者が圧倒的に多い。

 初級と冠した魔法の多くは、効果は弱いけれど、どれも簡単に修得できる。

 発動のための条件も容易で、失敗することもほとんどない。

 だからギルドの講習会でも広く新人に教えられているのだ。


 けれど、レベルが上がって中級冒険者ともなると、聖女や僧侶、白魔法使いなど、高度な治癒魔法を使える専門職を仲間に加えることができるようになる。

 そのため、自分の治癒魔法を使わなくなってしまう冒険者がほとんどなのだ。

 そもそも自分で治癒魔法を使ったところで、戦闘の難易度自体が上がっているため、初心者時代に愛用していた初級の治癒魔法では、回復量が追いつかないほどの大怪我をしていることも多い。


 わたしも、最初のうちは初級治癒魔法を重宝される普通の新人だったけれど、治癒魔法しか使えないことがわかってからは、色々と無茶振りをされる機会が増えて、かえって初級治癒魔法の可能性に気づいてしまった。

 とどのつまり、初級治癒魔法というのは、すごく大雑把にできているのだ。


 新人が使っても患部から外れないように、効果範囲は広めにできているし、軽傷しか治療しないことが前提のため、効果があるとされている症状や用法が多岐に渡る。

 それでいて、魔力消費は最小限に抑えられている。

 いわゆる、家庭の常備薬のようなものである。


 一般家庭では、二日酔いによる頭痛と、肩こり腰痛の痛みと、打撲や捻挫などによる痛み、風邪による発熱などに同じ薬草を使っていることがある。

 ちょっとした切り傷と、火傷と、虫刺されと吹き出物に使う薬草が同じということも、よくある。


 もともと、多くの種類の薬草を常備しておく余裕がないことや、症状別に薬草を使い分ける専門知識がないこと、薬草自体も症状別に細分化して生えているわけではないことから、庶民の家には汎用性の高い薬草しか置いていない。

 つまり“何にでも効くが、どれも完治しない”ブレンド薬草である。


 それでも一過性の軽い症状には効果があるため、治療院に行けない者や、薬師に相談できない者などが安いブレンド薬草を使い続け、怪我や病気を悪化させてしまうことがあるのだ。

(──だから気をつけなければならない、って薬草学入門の本に書いてあったわ)


 薬師や治癒術者を目指して、少しでも薬草学をかじったことがある者なら知っている事実だけれど、多くの者は耳学問だけで薬草を摂取しているため、往々にして用法容量が間違っている場合がある。

(──古代語で書かれた誰かの手記にも、同じような注意事項が書かれていたし)


 古書店で投げ売りされていた、例の手記である。

 誰かの日記か業務日報のようなものや、明らかに女性が書いたと思われるレシピ集のようなものまで、雑多で意外と面白かった。

 

 ブレンド薬草の是非は置いておくとして。

(治癒魔法が酔いを軽い状態異常として判断するかもしれないから、せっかくの酔いが覚めてしまうかも……。最悪、酔いだけ覚めて患部の痛みは取れないかも、という話はしたのだけれど……)


 聞く耳は持たれなかった。皆さん、立派な立ち耳をお持ちの種族だというのに。

 あっけらかんと「覚めたらまた呑み直せばいい!」だの「むしろ、呑み直す口実ができてラッキー!」だのと言い(つの)ったのだ。


 そこでお望み通り治癒魔法を掛けてあげた結果、素面(しらふ)で健康なおじさん三人組が爆誕した。

 横目でうかがっていた庭先には、テーブルセットや薪を担いで歓声を浴びている人達がいたので、たぶん彼らのことだったのだろう。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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