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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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281.治癒魔法は雄弁に語る㉜行列のできる……

 その後、おじさん(マルコ君のお父さん)は、なんとか納得してくれた──というより、うやむやになった。

 子供たちが反論して騒ぎ立てたタイミングで、急にマルコ君のおじいさんが、(マルコ君)とその友達を引き連れて焼肉コーナーに突撃したため、一騒ぎ起きたのだ。


 おじいさんは歩けるようになって食欲が出たのか、焼肉を食べると言って聞かず、自分は鉄板の前で肉が焼けるのをそわそわと足踏みしながら待ち、マルコ君()には「汁物も欲しい」と言ってポトフを取りに行かせていた。

 わたしは呆気に取られてそれを見ていたのだけれど、そのうちに雲行きが怪しくなってきた。


「じいさん、寝たきりじゃなかったのか!?」

 足取り軽く駆け寄ってきたおじいさんを見て、驚く村人たち。

「孫の前だからって、無理すんなよ。肉が食いたいなら、マルコに持たせてやるから座ってろって」

「いやいや、完全復活じゃ!」

 おじいさんは右手を突き出し、若者がやるように二本指を立てた(ピース)サインを作っている。お茶目なご老人である。

「親父!」


 追いかけて来たおじさん(マルコ父)が、自分の父親(マルコ祖父)に向かって説教を垂れる。

「昨日まで病人食しか食えなかった寝たきり老人が何言ってやがる。腹壊しても知らねーぞ!」

 血のつながった親子特有とも言える遠慮容赦のない物言いだけれど、不思議と心配していることは伝わってくる。

 こういった親子の──家族のやり取りは、物語に描かれたものしか知らなかったから、何か珍しいものを見た気持ちがした。


「だいたい親父、歯抜けのくせに一枚肉なんか噛み千切れるのかよ。せめて柔らかく煮込んだシチューにしとけ!」

 その言葉におじいさんが何か答えると、おじさんも周りの人たちも、驚きにどよめく気配がした。


 そして現在、わたしの前には獣人族のおじさんとおばさんたちが列を作っている。

 さっき治療したマルコ君のおじいさんが、脚だけでなく持病の腰痛も治ったことと、年齢に伴う胃腸虚弱が一瞬で全快したこと、さらには失った歯の数々が再び生え揃ったのだということを、周りの村人たちに吹聴しまくったらしいのだ。

(歯と胃腸は、治療したつもりがないのだけれど……)

 治癒魔法の余波が及んだのかもしれない。

 なかなか、ピンポイントで患部だけに魔法を掛けるのは難しいものである。


「今なら野菜とか薬草と引き換えに治療してくれるそうだぞ!」

 その上、なぜかそういうことになったようで、腰痛肩こり膝痛を訴える中高年の方々が大挙して押しかけてきた。

 明日、宿屋に野菜と薬草が大量に届きそうな気配がする。

(この人たち、魔法使いの魔力が有限だということを知っているのかしら……?)

 魔法には明るくない種族のようだから、知らないのかもしれない。


 普通の魔法使いは、たとえ低級の治癒魔法でも、連続では十人程度の治療が限界らしいのだ。

 わたしは何をしても魔力枯渇に陥ったことがないため、人伝(ひとづて)に聞いた話として“らしい”と言うことしかできない。

 おそらく、このように行列を作られたら、冗談ではない! と逃げ出すところなのだろう。

(ま、わたしは別に構わないけれど……)


 余興として始めたときから、こうなることも想定のうちである。

 わたしが唯一まともに使える魔法(治癒魔法)によって、喜んでくれる人がいるなら嬉しいことだし、余興だから最初から対価を受け取らずに治療することも織り込み済みだった。

(そして万が一……)

 風向きが変わって、人違いだった──探していた恩人とは別人である──という話になったとしても、明らかな貢献をしておくことで、後々、ただ食いの(そし)りを(まぬが)れることができるだろう。

 わたしのことを恩人だと言った張本人が不在なのだ。ほとんど理由もなく歓待されているようなものだから、何がきっかけで村人たちの態度が豹変するかなんて、誰にもわからない。

 予防線は、張っておくに超したことはない。

(わたしとレッドだけならまだしも、リオンとクロスまで詐欺や食い逃げとして罵られるのは避けたいもの……)


 列の整理はジーン君たちが担当してくれた。

 ジーン君は当然のような顔をして受け付け係をしているし、ロック君とミラノちゃんは椅子と角灯を集めて簡易の診療場所のようなものを作っている。マルコ君とティアナちゃんは並んだ人々に、この催し物の趣旨を説明して回っていた。


 (いわ)く、あくまでも余興であること。

 ダンジョンで冒険者が使うような軽い治癒魔法であること。

 つまり、治らなくてもご愛嬌。

 正規の治癒術者が行う施術ではないので、お礼は受け取れない。

 お気持ちは“現金以外”の品物で。


 わたしはそれを、流れ作業のように順番に(さば)いていくだけだ。

 瀕死の重傷患者がごろごろしていた“あの現場”とは違うので、正直言って楽勝だった。

 魔力残量的にも、全く問題はない。

(第一、患者さんに意識があって喋れるだから)

 どこがどう悪いのか、自分で話してくれるのなら余裕で捌ける。


 *


 わたしはダンジョンから脱出した後、しばらくしてノアさんたちと再会した。

 お互い、獣人族と人間(ヒト族)の振りをしているハーフエルフという立場だったから、表立っては接触できなかったけれど、獣人ギルド経由でワケありの依頼を頼まれたのだ。

 数か月ぶりの再会を喜ぶ間もなく、シアンの様子を尋ねる余裕もなかった。

 案内された小屋には、重傷を負った瀕死の獣人族が所狭しと横たわっていた。

 基本的に獣人族というのは治癒魔法や魔法薬に頼らず生きている。

 軽傷なら、自力で治すのが常なのだ。

 けれどその場に横たわっていたのは、もはや自己治癒力が追いつかないような者ばかりだった。

 半数以上は意識がなく──ほとんど死がを待つばかりの状態だったのだ。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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