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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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278.治癒魔法は雄弁に語る㉚略式詠唱と有り難み

 でも、ここは亜人種の村。

 ほとんどが獣人族で、人間(ヒト族)は一人もいない。

 村はずれには少数のエルフやドワーフ、ハーフリングなども住んでいるそうだけれど、今日の宴会には来ていないようだ。

 治癒魔法を濫発してハーフエルフ認定されても、何も問題はない。

 むしろ、人間(ヒト族)ではないと認識してくれたほうが、ありがたいくらいだ。

 

(やっぱり、ノアさんとジャックさんの恩人として歓待されているのだから、疑いの余地が残らないようにしておくことは大切よね……?)

 今さら「偽者では?」と疑われるようなことになっては、せっかく祝宴を催してくれたのに、村人たちのお祝いムードに水を差してしまう。


 モントレーさんに至っては、やっと族長の命令を果たせたことにほっとしたのか、気持ちよく酔っ払った上に、盛大に泣き上戸を披露していたのだ。

 遠くの席だったけれど、大騒ぎしていたのはよく見えたから、これで「人違いだったのでは?」と思われて場をシラケさせては、あまりに申し訳ない。


 少なくとも、今ここで治癒魔が使えることを証明しておくのは、悪いことではないはずだ。

 今日この村から、わたしの()生ならぬエルフ(・・・)生の第一歩が始まるのだし、もう人間(ヒト族)の振りをするために自重しなくてもいいかもしれない。


「では、お孫さん(マルコ君)の頼みですから、少しだけ余興にお付き合いくださいね」

 そう言ってわたしは、両脚に一気に治癒魔法を掛けた。

『恩寵を……』

 詠唱も略式でいいだろう。

 手をかざせば、ほんのりとその場に薄白い光が溢れ、患部を包み込んだ。

「はい、終わりましたよ」


「「「えっ」」」


 ノアさんやジャックよりは全くの軽傷の上、あの頃よりは治癒魔法自体の威力もレベルも上がっているので、楽勝と言えた。

 ──が、おじいさんもマルコ君も、周りで見ていた子たちも、きょとんとしている。


(あ……余興としては面白くなかったわね……)

 散々“余興です”と言い張ったわりに、一瞬で終わってしまったので、珍しい出し物を見て冷やかす余裕など全くなかったのだ。


「もう終わり?」

 観客である少年少女から、容赦のない感想が出る。

「確かに一瞬光ったけど……」

「詠唱とかは?」

「さっきより詠唱が短かいよな。何か違うのか?」

 最後の一言は、先ほどルミカさんの治療を見ていたジーン君の台詞である。

「略式詠唱です」

 そう答えるしかない。


 冒険者の間では、治癒魔法だろうと攻撃魔法だろうと、早くて確実なことが重要である。

 だから、無詠唱で魔法を使える魔法使いというのは尊敬されるのだ。

 ただ、とても高度な知識や技術が必要らしく、上級魔法使いの中でも一握りの者しか使いこなせないという。

 事実上の、魔法使い最高峰の証明でもある。

 わたしも実際に無詠唱魔法を見たのは、クロスのそれが初めてである。

 底辺冒険者には、上級魔法使いの情報など伝わってはこない。どこのパーティーの誰が無詠唱で魔法を使えるか、どんな活躍をしたか、詳細はおろか魔法使い本人の名前さえ伝わってこないのが普通である。

 

 けれど冒険者ではない者にとっては、詠唱がなかったり短かったりすることには、違う意見があるのだろうか。

(もしかして……有り難みが薄いとか思われてる!?)

 そういう反応をされても、わたしは本職の治癒術者や聖職者ではない──ましてや聖女でもないのだから、しかつめらしく(おごそ)かな対応などできない。


 単純な魔法なら、恩寵云々の聖句が入っていれば、たいていは発動するのである。

(あまり知っている人はいないけれど)

 重要なのは魔力や魔法陣、魔法式であり、詠唱はおまけに過ぎない。

 発光と共に患部の治癒が進む速度は、魔法のレベルや魔法使い本人の習熟度による。 

 完全無詠唱と違って、略式詠唱や短縮詠唱が使える者が珍しくないのはそのためである。

 慣れてくると、自然と詠唱の文言を短く略すようになるからだ。

 略式詠唱というのは、要は単なる横着の結果なのである。


 短縮詠唱は戦闘中に有効な魔法の使い方として、ギルドの講習でも基礎の解説をしていた。

 高度な魔法が使えない初心者のうちは、いくつかの魔法をまとめて発動させることができる裏技として重宝されるのだ。

 治癒と毒気し、防御力と攻撃力の上昇などの組み合わせをまとめて一度にかけることができれば、時間の節約にもなるし、組み合わせによっては高度な魔法の代用をさせることもできる。

(これも、あまり活用している人はいなそうだったけれど……)

 ギルドの演習場でも、短縮詠唱の練習をしている魔法使いを見たことは、数えるほどしかなかった。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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