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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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273.治癒魔法は雄弁に語る㉕ルミカの手鏡

 ルミカさんは話がまとまると、すぐに席を立って友人たちの輪の中へと走り去った。

 少しでも早く、傷跡が消えたことを自慢したかったのだろう。

 軽快な足取りだった。

 気にしていないと言いながらも、その実、ものすごく気にしていたのだ。

(だって、手鏡なんか持っているんだもの)

 あの様子だと、前髪のセットが崩れていないか、頻繁に確認していたのだろう。

 厚く下ろした前髪が何かの拍子に乱れ、傷跡が見えてしまっていないか、常に気にしていたに違いない。


 鏡というのは、手のひらに隠れる程度の小さなものでも、決して安くはない。

 こう言っては失礼だけれど、片田舎の貧相な村では、手に入れられる者など知れているだろう。

 一家に一枚、代々引き継がれた骨董品として存在するというなら、まだ納得もできる。

 けれど、十代の村娘が気軽に──それも無造作にポケットに入れて携帯するというのは、普通ではあり得ないことだった。

 貴族夫人や令嬢の手鏡でさえ、侍女が丁寧にケースに入れて携帯しているのだ。


 王都では小さな手鏡が、平均的な冒険者の一か月分くらいの稼ぎに相当する。

 経験を積み、冒険者としてのレベルも上がって懐に多少の余裕が出てきた若者が、恋人や親への贈り物として奮発するような品である。

 それとて数か月間の貯蓄を()た上で、だ。

 当然、採取依頼しか受けられない底辺冒険者であるわたしには、手の届かないアイテムであった。


 生まれた家であるヴェルメイリオ家の屋敷には、手鏡だけではなく、全身が映るような大きな姿見までもが何枚も存在していた。

 メイドに身を(やつ)してからは、屋敷中の大鏡を磨かされた。

 脚立に乗って、手の届かない上の方を拭いている間に、脚立を蹴られて倒されたり、拭いたばかりの場所に手形を付けて汚されるのは、いつものことだった。

 何度、自分の背丈より高い脚立の上から、転落させられたかわからない。

 

 フィレーナお母様は、裏側に花の彫刻が入った優美な手鏡を大事にしていた。

(病状が悪化してからは、手鏡を見て身だしなみを整えるような体力もなかったけれど……)

 その鏡は、いつの間にかシャーリーンが持ち出して割ってしまった。

 本人は、申し訳なさの欠片もない顔で事故と言い張り、笑って「また買ってもらえばいいじゃない」と(うそぶ)いたのだ。

 手鏡自体は、買い直すことも可能だろう。

 貴族家にとっては、手鏡の一枚や二枚、たいした出費ではない。

(でも“フィレーナお母様の形見”の鏡は、あの一枚だけだったのに……)


 そんなものだから、普段は寄宿舎にある据え付けのものを使っていたし、どうしても必要なときには魔法で代用品を作っていた。

 生活魔法の中には、鏡のように姿を映し出す物体──いわゆる鏡面を作り出す魔法がある。

 おそらく昔の人も、上流階級の人間以外は鏡を手に入れることが難しかったために、代用品を作り出す魔法を編み出したのだろう。

 一つは、水面を一時的に凪いだ状態にして、水鏡を作り出す魔法である。

 もう一つは、金属の表面を顔が映るくらいに美しく磨き上げる魔法である。

 後者は鏡の代わりになるものを作り出すためというよりは、主に銀食器を磨くための魔法なのだけれど、短剣でもカトラリーでも、輝くまで磨けば十分に鏡の代わりを果たした。


 ルミカさんが気にしていないというのなら、高価な鏡を日頃から持ち歩いたりはしないはずだ。

 ルミカさん本人が欲したのか、家族が買い与えたものかは知らないけれど、無理をしてわざわざ手に入れたのだろう。

 

 わたしにも覚えがある。

 右目を隠すために下ろした前髪が、乱れずにきちんと下りているか。

 前髪がめくれないように掛けた、髪型を固定(ヘアスタイルをキープ)する魔法が、きちんと効果を発揮しているか。

 一頃(ひところ)は、鏡面になるものを見つける度にチェックしていたものだった。


 鏡面魔法も、そのころに覚えた。

 属性魔法は何一つまともに使えなかったけれど、無属性魔法だけは、試す端から習得できた。

 生活魔法は言うに及ばす、危険な無属性魔法も、そうでない無属性魔法も。

 おかげで日常生活では、お金がないこと以外はたいてい魔法で切り抜けられた。


貨幣(おかね)だけは魔法で作り出せないものね……)

 たとえ、金貨を錬成する魔法があったとしても、それを行ってしまえば犯罪である。

 過去には錬金術師が似たような実験を行って、貴金属の偽造を疑われて捕まっている。

 貴金属の錬成は禁忌なのだ。

 その辺りは、魔法使いについても同じである。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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