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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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267.治癒魔法は雄弁に語る⑲詭弁

「奴隷も従者も、間に合っているから必要(いら)ないわ」

 今必要なのは、荒野の谷を越えられるAランク冒険者だ。

「そんなぁ……じゃあ……」

 治療はしてもらえないのか……とマルコ君はショックで顔を歪ませた。

「奴隷も従者もいらないけれど、さっき治癒魔法を見たいって言ってたものね。いいわよ、見せてあげる」

「「「いいの!?」」」

「「いいのか!?」」


「その代わり、よく聞いて。二度と、自分から奴隷になってもいいなんて言っては駄目よ。村の外には悪い大人がいっぱいいるんだから、取り引きを持ちかけるなら、もっと上手くやりなさい」

 意趣返しに怖い話で脅してやろうと思っていたけれど、すっかりやる気を削がれてしまった。

「いいこと? わたしは、あなたたちがダンジョンの話を強請(ねだ)ったから、実際にどうやって族長(ノア)さんたちを助けたか、同じようにやって見せるだけ。たまたま、その実演に協力してくれるのが、マルコ君のおじいさん。──そういうことよ?」

 少年少女が皆、こくこくと大きく頷いた。


 詭弁だとしても、それなりの建て前があれば、たとえ教会の調査が入ったとしても言い逃れができる。

 ダンジョンの外や、依頼の遂行中でもないのに治癒魔法を使うと罰せられるというのは、正しいようでいて、正しくはない。


 (よう)は、見つからなければいいのだ。

 見つかったところで、正当な理由があればいい。

 商売として行っていなければ、たいして問題にはならない。

 教会の治癒術者も、こんな平原の田舎村まで、わざわざ取り締まりに来ることはない。

 違法に治癒魔法を使った魔法使いを、一人や二人見つけたところで、金一封が出るわけではないのだ。


 わたしが警戒していたのは、教会に目を付けられることで、そこからイーリースお継母(かあ)様に素行や実態がバレることだ。

 冒険者登録はしたけれど、治癒魔法鹿しか使えない底辺の冒険者。

 薬草の採取依頼しか受けられない、哀れな小娘。

 お継母(かあ)様には、そう思わせておきたかった。

 中級以上の治癒魔法が使えると知られれば、どんな利用のされ方をするか、わからない。


 そもそも、家庭やパーティー内で小さな怪我を治すために、初級の治癒魔法を使用することは黙認されている。

 新人冒険者でも、ゴブリンに殴られて骨折することはあるのだ。

 初級の治癒魔法でも、軽い骨折くらいなら治る。

 もしそれ以上の治癒魔法を使うことになっても、村に立ち寄る冒険者の中には、中級治癒魔法を使える人もいるのだから、一人の老人の怪我が治ったくらいで悪目立ちすることはないだろう。

 他にも、エルフ族に頼んだとか、傭兵団員が持ち帰った上級ポーションを使ったとか、いくらでも言い訳はできる。

(もともと、最初から治癒魔法の実演でお茶を濁そうと思っていたしね)


 ダンジョンでの出来事は、本当は詳しく話したくなんかなかった。

 だから説明する代わりに、何人か身体に不調のある人を連れてきてもらって、実演することで時間を稼ごうと思っていたのだ。

 ダンジョンでの出来事をそのまま説明するのではなく、ダンジョンで使った治癒魔法の説明をすることで、誤魔化そうと考えていた。

 シアン様の話で意外と時間を稼げたし、ちょっとした意趣返しにダンジョンの“怖い話”もできた。

(さすがに、焼肉を目の前にしながら、シアンの焼け爛れた皮膚の詳細は話さなかったけれど)


 ところが、あまりにも危機意識が薄い子供たちを目の当たりにして、お節介な気持ちが湧いてしまった。

 お茶を濁すのではなく、きちんと忠告しておいたほうがいいかもしれないと、思ってしまったのだ。

(考えが足りないのは子供だから仕方がないけど、これはちょっと(まず)いかも……)


 この子たちは当然、村の外に奴隷狩りが跋扈(ばっこ)していることは教えられているはずである。

 が、奴隷狩りが必ずしも盗賊のような“ならず者”の風体をしているとは限らない。そのことを知らないのだ。

(人を陥れるタイプの悪人は、たいがいが“善人”の顔をしているのよ)

 理由もなく悪意を向けられたり、ダンジョンに置き去りにされた経験のない子供たちには、理解できないだろう。

 温厚で善良そうな外見の人間(ヒト族)が相手ならば、興味本位で近づいて、ころっと騙されてしまうかもしれない。


 ──わたしだって、全く知らない冒険者だったなら、ダンジョンについて行ったりはしなかった。

 たまにギルドで見かけたことがあったし、定期的に依頼をこなしている様子だったから、乱暴狼藉を働く不良冒険者の類でないことは、わかっていた。

 男性冒険者ばかりのパーティーではなく、女性冒険者の多いパーティーであることも確認して、加わることを承諾したのだ。

(それが裏目に出た……というか、最初から罠だったなんてね……)

 思い返しても、自分が愚かだったのだから仕方がないけれど、まったく人とは見た目では判断できないものである。


「僕、父ちゃんに頼んでじいちゃんを連れてきてもらうね!」


 マルコ君は嬉しそうに尻尾をパタパタさせながら、席を立った。

 おれも行く! あたしも! とロック君と女の子二人もガタガタと立ち上がる。

 四人とも、ちゃっかりしたことに、持ってきた食べ物はきれいに完食済みである。

 おじいさんの心配をしていたマルコ君でさえ、目の前のものは食べきっている。

 

 ジーン君だけがこの場に残った。

「あいつら……皿片付けないで行きやがって」

 わたしは貧乏くじを引かされているジーン君を見て、クスっと笑った。

 彼はたぶん、後片付けのために自分から残ったのだ。

「その焼肉、残すならもらっていいか?」

「うん、食べ切れなくてごめんなさい」

 ジーン君は空になった皿を回収しつつ、わたしの皿から肉の切れ端を摘まんで口に入れた。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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